エンジェル投資家が出資金の返還を求めてきた場合の対応を教えてください。
エンジェル投資家とは
エンジェル投資家は、多くの場合、創業直後でアイディアしか固まっていない会社に対して、少数の株式と引き換えに、数十万〜1,000万円程度を投資する個人投資家です。
場合によってはエンジェル投資家に対して、種類株式やJ-KISS(コンバーティブル・エクイティ)を発行している事例もありますが、本件では通常多い、普通株式を発行している事例を想定してご回答いたします。
まず、消費貸借契約に基づく融資ではなく、株式を対価とした出資のため、原則としてエンジェル投資家からの出資金の返還(株式の買取り)の要請に応じる義務はありません。
もっとも、いくつか留意すべき点があるので解説いたします。
実際の対応時のポイント
まず、出資金を返して欲しい理由と、契約上の根拠を確認しましょう。
エンジェル投資の場合、通常、創業者個人に対する信頼をベースに行われ、投資家が出資金の返還(株式の買取り)を求めることができる、いわゆる株式買取請求権は定められていないことが多いです。
しかし、契約違反等の一定の場合に株式買取条項が定められている場合もあり、特に契約時に専門家に相談していない場合、見過ごされてしまう場合もあります。
そのような場合には、株式買取義務が発生し、株式買取の対価として、出資金の返還(場合によっては出資金以上の金額の支払い)を行わなければならない可能性があります。
もっとも、株式買取条項の文言や具体的な状況によっては、エンジェル投資家と交渉することも可能ですので、投資契約において株式買取条項の記載があった場合には、専門家への相談をお勧めします。
むしろ出資金の返還に応じた方がよい可能性も
一方、株式買取条項がなく、出資金の返還に応じる義務がない場合でも、エンジェル投資家や出資金の返還を求める理由や会社の状況次第では、任意で出資金の返還に応じた方が良い場合も存在します。
例えば、エンジェル投資家と会社、相互の信頼関係が壊れており、また、会社の状況が順調で、出資金の返還に応じる資金的余裕がある場合です。
会社の側からしても、出資の受け入れは基本不可逆なため、一方的に株主から買い取ることはできません。そして、いわゆるIPOまたはM&Aなどのエグジットまで、株主には株主総会決議に参加してもらう必要があり、それ以外の様々な場面で、コミュニケーションを取る必要があります。
上記のように、信頼関係が壊れている場合には、会社としても株主であり続けてもらうにはリスクがあり、また、エンジェル投資家が出資金の返還を求めている時点で、会社との信頼関係が壊れている可能性も高いです。
さらに、今後事業が順調に進むと買取価格が上がる可能性もありますので、出資金と同額で済み、かつ、対価の支払いも可能な状況であれば、株式買取り(出資金の返還)に応じた方が良い場合もあると思料します。
※この記事は、2024年1月16日に作成されました。