「破産管財人」とはどのような人なのでしょうか?
破産管財人が選任される場合とその選任時期
破産手続は、一定の要件を満たす債務者について、申立てにより、裁判所の決定で開始されます。
破産管財人は、破産手続開始と同時に、裁判所によって選任されます。ただし、破産手続の開始と同時にその手続を終了する同時廃止となる場合、破産管財人は選任されません。
法人破産の場合、多くの裁判所の運用を踏まえると、基本的に、破産管財人は選任されると考えてよいですが、破産管財人が選任されるのは、法人破産の場合に限りません。
破産管財人の選任に当たり考慮される事情等
破産管財人に誰を選任するかは、裁判所の裁量に委ねられています。
破産規則において、裁判所は、その職務を行うに適した者を選任するものとされていますが、破産管財人の資格要件や具体的な選任基準等については、法律上、特に規定がありません。
しかし、破産管財人が行う業務には法律的な専門知識や公正中立性が要求されることなどから、専ら弁護士が破産管財人に選任されています。
ただし、弁護士であれば誰でも破産管財人に選任されるものではなく、一般的に、事案の内容(債権者数、負債総額、予想される財産の規模や管財業務の多寡、難易等)とそれに対応する破産管財人候補者の適性(破産管財人としての経験や実績、手持事件数、専門分野の知識・経験、所属事務所の規模や事務員の状況等)とが総合的に考慮されて、その案件に適した弁護士が選任されます。
破産管財人の選任の具体的手順
一般的に、裁判所は、破産手続の開始に先立ち、上記の事情を総合的に考慮して適任と考えられる破産管財人候補者に連絡し、事案の概要を説明した上で、破産管財人の就任の可否を打診します。その候補者は、利害関係の有無などを確認し、問題なければ、破産管財人の就任を内諾します。このようにして内諾を得た場合、裁判所は、その候補者と破産手続開始の日時等を打ち合わせた上、破産手続開始と同時にその候補者を破産管財人に選任します。
破産管財人は、通常、その内諾後には準備活動を開始し、破産手続開始後は直ちに具体的な業務に着手することになります。
破産管財人の役割
破産管財人は、原則として破産者が破産手続開始時に有している財産の管理及び処分をする権利を破産者に代わり有します。破産管財人は、この権利に基づき、破産者の財産の管理を開始してその状況を調査し、可能な限り有利に金銭に換え、債権者への配当の原資の形成に努めます。破産管財人は、本来配当の原資となるべき財産が、総債権者の利益を害したり、債権者間の平等を害したりする破産者の行為により第三者に逸出した場合に、否認権という権限を行使して元に戻すなどして、本来あるべき配当の原資を形成していくことなども行います。
また、一般的な債権者に対する配当のため、その債権者の権利内容を調査し、配当を受領すべき債権者の範囲や債権額を確定する業務を行った上で、配当に関する業務なども行います。
これらに加えて、個人破産の場合は、破産者の免責(借金等を支払う責任の免除)についての調査等の業務などが加わるのが通常です。
これらの業務は、破産法がその目的として掲げる「債務者の財産等の適正かつ公平な清算」と「債務者について経済生活の再生の機会の確保」を実現するためのものです。
破産管財人は、破産手続全体において、広範かつ多様な業務を行うものであり、破産手続の目的を実現するための中心的な役割を担っているといえます。
最後に
以上のとおり、破産管財人は、破産手続の目的を実現するための中心的な役割を担います。
破産手続の目的を実現できるか否かは、破産管財人の能力や経験等によるものといっても過言ではなく、その選任についても、その役割を考慮して事案に適した破産管財人が選任されるとともに、選任後直ちに業務に着手できるよう配慮されています。
- 伊藤眞『破産法・民事再生法〔第5版〕』(有斐閣、2022年)
- 伊藤眞ほか『条解破産法〔第3版〕』(弘文堂、2020年)
- 岡伸浩ほか編著『破産管財人の財産換価〔第2版〕』(商事法務、2019年)
- 川畑正文ほか編『破産管財手続の運用と書式〔第3版〕(新日本法規、2019年)
- 裁判所職員総合研修所監修『破産事件における書記官事務の研究―法人管財事件を中心として―』(司法協会、2013年)
- 第一東京弁護士会総合法律研究所倒産法研究部会編『破産管財の実務〔第3版〕』(金融財政事情研究会、2019年)
- 田原睦夫ほか監修・全国倒産処理弁護士ネットワーク編集『注釈破産法(上)』(金融財政事情研究会、2015年)
- 永谷典雄ほか編『破産実務の基礎』(商事法務、2019年)
- 永谷典雄ほか編『破産・民事再生の実務〔第4版〕破産編』(金融財政事情研究会、2020年)
※この記事は、2024年10月30日に作成されました。