従業員が賃下げ反対の団体交渉をしてきたのですがどう対処すべきでしょうか。
どのような場合に賃下げができるのか
賃金は、重要な労働条件の一つですので、賃下げ(賃金の額を労働者に不利益に変更すること)に制約があります。
賃下げを行うためには、
①労働者の個別の同意がある場合(労働契約法9条)
②合理的な理由に基づき就業規則を変更する場合(労働契約法10条)
のどちらかに該当することが必要です。逆にいえば、この2つのどちらにも該当しなければ、賃下げを行うことはできません。
①の労働者の個別同意は、労働者の「自由な意思」に基づく同意であることが必要です。賃下げの必要性を説明したうえで、真摯に同意を得るように注意しましょう。得られた同意は、同意書などの形にしておくことが望ましいです。
とはいえ、労働者数が多くなるほど、労働者全員の個別同意を得ることは困難になります。その場合は、②の方法による賃下げを検討することになるでしょう。
②の就業規則の変更による賃下げには、合理的な理由が必要です。合理的な理由があるかどうかは、次のような要素を総合的に考慮して判断することになります。
- 労働者の受ける不利益の程度
- 労働条件の変更の必要性
- 変更後の就業規則の内容の相当性
- 労働組合等との交渉の状況
- その他の就業規則の変更に係る事情
賃下げと労働組合とのかかわり
設例のように、多くの従業員から個別の合意が得られず、賃下げ反対の団体交渉に発展した場合、就業規則を変更する方法を目指すことになるでしょう。
しかし、先述のとおり、就業規則変更による賃下げには、合理的な理由が必要です。
合理的な理由があると判断される一要素として、「労働組合等との交渉の状況」も考慮されます。そのため、従業員が加入する労働組合がある場合には、まずは労働組合との交渉を行い、その同意を得るよう働きかけることが有用です。
団体交渉に応じる義務はあるのか
労働者(勤労者)には、憲法上、団結権が保証されています(憲法第28条)。そして、この団結権を実質的に保障するため、使用者は、正当な理由なく労働者の代表者との団体交渉を拒むことはできないこととされています(労働組合法第7条2号)。
つまり、団体交渉を拒否することは違法となります。団体交渉を拒否することは不当労働行為にあたり、就業規則を変更するうえでも、逆に会社側に不利になるだけです。
団体交渉を成功させるポイント
団体交渉の申し入れを受けた場合には、申入れに応じることを前提に、以下のような点を戦略的に検討しましょう。
- 日時や場所
- 出席者
- 会社として説明するべき内容
- 事前に準備すべき資料 など
団体交渉に拒絶的になるのではなく、むしろ先手を打って、積極的に団体交渉の場を設定していくことが、会社の真摯な態度を示すことになり、無益な紛争を防ぎ、紛争解決の可能性を高めることにつながります。
対応に不安がある場合には、予め弁護士に相談したり、場合によっては、対応に慣れた弁護士に同席してもらったりすることも検討してみてください。
まとめ
労働組合から団体交渉を申し入れられたとき、多くの社長は戸惑い、悩みます。団体交渉に労力を割くことは、経営的にも、また、心理的にも大きな負担となることでしょう。
しかし、賃下げは、労働者の生活にも大きな影響を与える問題です。
このことを忘れずに、団体交渉の申し入れには前向きに応じ、動揺せず、拒絶的になることなく、真摯に理解を求める姿勢を示すことが、交渉を成功させるうえで大切です。
※この記事は、2024年9月4日に作成されました。