ビルのオーナーから賃料増額を求められた際の対応方法を教えて下さい。
普通借家の場合、増額に応じなくても法定更新されます
普通借家契約の場合には、借地借家法26条で「法定更新」の制度があり、契約期間満了の1年前から6か月前までの間に、賃貸人から「正当事由」のある更新拒絶通知がない限り、契約期間を過ぎても、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなされます(その場合、契約期間は定めのないものとされます)。一般に、賃料増額に応じないからといって「正当事由」にはなりませんので、契約自体が更新されないということはありません。従前の賃料を払っていれば、賃料不払いで契約を解除されることもありません。
一方、定期借家契約の場合には、契約期間満了によって当然に契約は終了します。再契約はあくまで賃貸人が了承した場合なので、賃料増額に応じなければ再契約しない、ということも賃貸人の自由です。
新規賃料と継続賃料の違い
賃貸人側は「周辺の賃料相場が坪○万円だから、そこまで賃料を上げます」といった主張をしてくることがあります。しかし、新規に市場で賃貸を開始する場合の「新規賃料」と、既に契約関係にある当事者間での「継続賃料」とは、法的にみても不動産鑑定理論からみても、全く異なります。
賃料増額は、契約当事者間で現行賃料を現実に合意し、適用した時点(直近合意時点)から相当長期間が経過し、その間に現行賃料水準と新規賃料水準の乖離が拡大して、現行賃料水準が客観的に不相当といえるレベルになっている場合に、はじめて認められるものです。
また、賃料増額が認められる場合にも、現行賃料での契約がある以上、新規賃料水準まで一気に増額するということは無理です。通常は、せいぜい新規賃料水準と現行賃料水準を足して2で割った程度の水準にまで上げるというのが現実的なラインです。
また、賃借人が交渉に応じなければ、賃貸人は調停や訴訟を行って賃料増額を求める必要があります。調停や訴訟には弁護士費用や不動産鑑定の費用もかかり、賃貸人にとってもそう容易なことではありません。
現実的な解決のポイント
以上を踏まえると、まずは、周辺の新規賃料水準や直近合意時点の土地価格の上昇の程度などを調べ、現行賃料水準が不相当といえるレベルに至っているのかを検証することが必要です。
不相当と言わざるを得ない場合にも、落としどころを探ることが重要です。できるだけ小幅の増額で合意できれば、その後相当期間は再度の賃料増額請求は困難ですので、賃借人にとって適切な解決であることが多いといえるでしょう。
まとめ
賃料増額請求を受けた場合、あわてずに、できれば弁護士や不動産鑑定士と相談をして、冷静に対応することが必要です。
※この記事は、2024年1月26日に作成されました。