スキー中に接触されてけがをした場合、損害賠償請求はできますか?
はじめに
スキーを楽しむはずが、思わぬ事故で怪我をしてしまうということは少なくありません。スキー事故では、交通事故と違って、道路交通法のように基本的なルールを定めた法律はありません。
それでは、不幸にもスキー事故の被害に遭ってしまったとき、責任の所在についてどのように考えればよいでしょうか。
スキー場での基本的なルール
法律ではありませんが、スキー場での基本的なルールを定めたものとして、国際スキー連盟が定めた「スキーヤーとスノーボーダーの行動規範」(FISルール)と、全国スキー安全対策協議会が定めた「スノースポーツ安全基準」があります。これらのルールの中では、前方のスキーヤーの優先権、追い越し時の安全の確保、合流時や停止後の滑走再開時における安全確認など、スキーヤーが順守すべき基本的なルールが定められています。
また、スキー場でのルールに関する重要な判例として、最高裁判所の平成7年3月10日判決があります。この判決では、「スキー場において上方から滑降する者は、前方を注視し、下方を滑降している者の動静に注意して、その者との接触ないし衝突を回避することができるように速度及び進路を選択して滑走すべき注意義務を負う」とされました。つまり、衝突事故を回避する基本的な注意義務は上方を滑走するスキーヤーに課せられているということです。
実際の対応での注意点
ご相談のケースでは、後方から他のスキーヤーに衝突されたとのことですので、相手方が上方の滑走者であったと考えらえます。このような場合、衝突を回避する注意義務を負うのは相手方ですので、相手方に対する損害賠償請求は可能と考えられます。
ただし、相談者様がコースの途中で一度停止した後、再度滑り出したときや、狭いコースから広いコースに合流しようとしたタイミングで衝突した場合には、相談者様にも上方の安全確認をした上で滑り出したり、コースに合流したりする注意義務が課せられますので、過失相殺による賠償金の減額は避けられません。
また、相談者様が完全に停止していた状態であっても、例えば斜度の切り替わりにより上方から死角になるような場所で停止していた場合には、視界の悪い場所での停止を避けなければならないというルールへの違反がありますので、やはり過失相殺の処理がされることになるでしょう。
このように、事故時の状況によって請求できる金額に差が生じてくることがありますので、ウェアラブルカメラ等の映像の保存、パトロールへの報告、同行者への確認などによって、事故状況をできる限り早く、正確に保存しておくことが重要です。
被害者になったときの治療費等の負担や、加害者になってしまったときの損害賠償責任の負担に備えて、適切な保険に加入しておくこともぜひご検討いただきたいと思います。
まとめ
ウインタースポーツを安心して楽しむことができるように、スキー場での基本的なルールやご自身の保険の加入状況を今一度確認し、万全の準備を整えてスキー場に行くことをおすすめいたします。
※この記事は、2024年10月8日に作成されました。