オリジナルデザインの椅子は、著作権で保護されますか?
工業デザインと知的財産権
工業デザインを保護する法律には意匠法があります。意匠法では、物品の形状、模様若しくは色彩若しくはこれらの結合であって、視覚を通じて美観を起こさせるものが「意匠」として保護されます(意匠法2条1項)。しかし、意匠は特許庁で登録をしなければ権利が発生しませんので、登録・維持費用が発生してしまいます。また、保護期間も、出願の日から25年となっており、著作権法に比べると短い保護期間しかありません。そこで、登録の必要がなく、また、保護期間も長い著作権法で保護できないかが議論されてきました。
工業デザインと著作権
著作権法は、もともと絵画などの「純粋美術」を保護する法律であって、実用品のデザインのような「応用美術」についても著作権法で保護されるかについては議論がありました。著作権法は、「美術の著作物」には美術工芸品を含むものとする、と定めていますが、産業上の利用を主目的とする実用品まで著作物に含まれるかは明記されていないからです。
この点について、椅子のデザインに著作物性を認めた知的財産高等裁判所平成27年4月14日判決(なお、事件の結論としては、類似性を否定して著作権侵害を否定)がありますが、その後の裁判例では、応用美術については、実用目的に係る機能と分離して、それ自体独立して美術鑑賞の対象となる創作性を備えている場合には、著作物として保護する(従って、「座る」という目的に係る機能と分離されていない椅子のデザインについては著作物として保護しない)、という考え方が主流になっています(東京地方裁判所令和5年9月28日判決など)。
そのような裁判例の流れからすると、椅子のデザインのうち、実用目的に係る機能と分離できない部分(例えば、椅子の足や座面の形状)は著作物として保護されず、実用目的と切り離して美術鑑賞の対象となり得る部分(例えば、背もたれに施された装飾模様)については著作物として保護される、ということになり、著作権で保護される範囲は極めて限定的になると考えられます。
実際の対応時のポイント
このように、椅子のデザインなどの工業デザインは基本的に著作権で保護されないので、模倣を防ぎたい場合には意匠登録を行うことがベストです。
しかし、意匠登録をしていないが、実際に模倣品が登場してしまった、という場合であっても、すぐに諦めることはありません。前述のように、実用目的に係る機能と分離できる部分が模倣されている場合には、著作権侵害を主張できる可能性がありますので、具体的な椅子のデザインによっては、著作権法で模倣を差し止められる可能性もあります。
また、不正競争防止法が使える可能性もあります。椅子のデザインが顧客の間で周知になっており、その椅子を見ればどこのメーカーの椅子かが認識できるレベルになっていて、かつ、模倣品によって出所混同が生じていれば不正競争防止法違反となる可能性があります(不正競争防止法2条1項1号)。また、デザインが著名にまでなっていれば、出所混同がなくても不正競争防止法違反となる可能性があります(同2号)。さらには、日本国内で最初に販売された日から3年以内であれば、椅子の形態(椅子の機能を確保するために不可欠な形態を除きます)を模倣した商品を販売すれば、不正競争防止法違反となります(同3号)。模倣品が登場してしまった場合には、弁護士に相談してこれらに該当すると主張できるか、アドバイスをもらうことをお薦めします。
まとめ
椅子のデザインなどの工業デザインの模倣を防ぎたい場合には、登録・維持費用がかかってしまいますが、意匠登録を行うことをお薦めします。意匠登録をしていない場合、模倣者に対して侵害を止めるように請求することは難しくなりますが、著作権法や不正競争防止法で請求ができる場合もありますので、実際に模倣品が登場してしまった場合には弁護士に相談してみることをお薦めします。
- 作花文雄著『著作権法[第6版]』ぎょうせい、2022年
- 奥邨弘司著『応用美術(1)』有斐閣、著作権判例百選[第6版]、2019年
- 中川隆太郎著『応用美術(2)』有斐閣、著作権判例百選[第6版]、2019年
※この記事は、2024年6月4日に作成されました。