企業買収の全体の流れを教えてください。
対象会社が抱える問題点の調査及び分析を十分に行った上で、契約書の条項を調整し、買収によるリスクをできる限りおさえた形で買収を行うことが肝要となります。
買収によるリスク調査の必要性
企業買収は、買手企業と売手企業(対象会社)の相乗効果によって、大きな利益を生む可能性がある一方で、種々の権利関係の移転が伴いますので、リスクが付きものとなっております。
そのため、企業買収を行うに際しては、
- そもそも買収を実行すべきなのか
- 買収価格はどの程度が適正なのか
- 買収の目的を達成するにあたって障害となり得る事情はないか
等といった、買収によるリスク調査を行うことが非常に重要です。
デュー・デリジェンス(調査)の実施方法
具体的には、弁護士等の専門家が、対象会社から直近~過去数年分の会社資料の開示を受け、当該開示資料の精査を行い、追加資料の請求及び質問・インタビューの実施等を経て、調査の結果をまとめる、といった方法で行うことが一般的です。
例えば、デュー・デリジェンスの結果、対象会社の以下のような問題点が見つかることがあります。こうした問題点を把握せずに買収を実行してしまうと、後から多額の損害を被ってしまう可能性が生じます。
- 対象会社が、自社の株式を担保として、多額の債務の借り入れを行っていた。
- 対象会社において、法律上必要となる株主総会決議や取締役会決議等が実施されていなかった。
- 対象会社が、主要な取引先との間で、対象会社に著しく不利な内容での契約書を締結していた。
- 対象会社が、その従業員に対する多額の未払残業代を抱えていた。
- 対象会社の事業遂行上必要不可欠な許認可について、その更新が不許可となる欠格事由が発覚した。
- 対象会社が賃借している物件の更新期限が近付いており、数か月後に多額の更新費用を支出する必要があった。
- 対象会社のブランドに係る知的財産権が第三者に帰属しており、今後の継続使用が困難な状況となっていた。
- 対象会社と第三者との間で潜在的な紛争が生じており、今後、対象会社に対して、巨額の損害賠償請求訴訟が提起される予定であった。
このように、デュー・デリジェンスを行い、対象会社が抱える問題点を洗い出すことによって、買収実行の可否等を検討する過程を踏むことが非常に重要です。
契約書の作成等
そして、対象会社が抱える問題点を明確にした上で、買収に関する契約書(株式譲渡契約書、事業譲渡契約書及び合併契約書等)の交渉・作成等を行うことが一般的です。
具体的には、当該契約書の交渉・作成の段階で、
- スキーム(株式取得、会社分割、事業譲渡、合併及び資本提携等)の再検討
- 買収価格の調整
- 対象会社に課す、「買収の実行までに行う義務」の内容の精査
等を行い、契約書の条項に盛り込んでいくことになります。
また、買収の実行までに問題点の解消を行うことが困難な場合でも、買収後に当該問題が顕在化し、買手企業側に損害が生じた場合等には、売主側に損害賠償を求める旨の条項を盛り込むことも効果的です。
このように、デュー・デリジェンスの結果に即した契約書を作成することにより、買収によるリスクをできる限りおさえることができます。
まとめ
買収を行う際には、買収によるリスク調査と、問題発覚時の対応方法の検討を行った上で、より実態に即した契約書の作成を行うことが、成功の秘訣となります。
※この記事は、2024年9月17日に作成されました。