TOPQ&A記事タイの企業と取引をする際の注意点を教えてください。
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タイの企業と取引をする際の注意点を教えてください。

当社は今度タイの会社と取引することになり、売買基本契約を締結することになったのですが、どのような点に注意すればよろしいでしょうか。
タイに限らず海外の会社と契約を締結する際は、貴社の要望が正確に反映されているか、そして相手が内容を誤解していないか、慎重に確認するようにすることが一番重要です。その他紛争解決条項や準拠法条項にも配慮しましょう。またタイの法令上問題がないかタイ法の弁護士に確認してもらうことも重要です。
回答者
坂元 靖昌 弁護士
北浜法律事務所・外国法共同事業

海外の事業者との契約締結の際の留意点

海外の事業者との契約といえども、基本的な契約の枠組みに違いはありません。例えば売買契約の場合は、「売買目的物」や「価格」、「引き渡し時期」、「代金支払時期」といった事項を取り決めなければならないことは、日本国内の事業者と契約する場合と共通しています。そのため過剰に神経質になる必要はないと思います。

ただ、いくつか押さえておくべき点があります。まず日本国内の事業者同士で契約締結する場合と異なり、国の違う事業者同士で契約締結する際は、それぞれ背景にしている法的概念や常識が異なる場合がありますので、慎重に合意する必要があります。特に日本の契約の場合は、契約に締結していない事項についても「誠実に話し合って解決する」ことを定める「信義誠実交渉条項」を設けることが多くあります。しかし海外の事業者との契約の場合は、「契約に締結されていない事項は無効」という「完全合意条項」が締結されることが一般的です。したがって、両者の合意した内容が全て漏らさず盛り込まれているか慎重に確認する必要があります。

また日本国内の契約の場合、相手方が契約違反をしたら、裁判所に訴えることで違反を是正したり賠償を求めたりすることができます。しかし海外の事業者との契約の場合、日本の裁判所に訴えたとしても、そもそも裁判管轄がないと言って訴訟を受け付けてもらえなかったり、あるいは日本の裁判所で判決を取得しても、対象の国(今回でいえばタイ)ではその判決によっても強制執行できなかったりすることが考えられます。そこで、どのように紛争を解決するか、「紛争解決条項」を定める必要があります。

紛争解決条項にはいくつか選択肢がありますが、仲裁条項を定めておくという方法が有力な選択肢となります。

仲裁とは、当事者双方が合意して裁判官役をする人間を選任し、その人に判断してもらうという手続です。

仲裁の場合、(あくまでも当事者間の合意が必要になりますが)仲裁人の数や言語、仲裁地なども合意することができますので、双方が納得する手続で紛争を解決することができます。また裁判と異なり、仲裁の場合、ニューヨーク条約¹という執行に関して定めた条約があり、同条約締約国においては、基本的にその承認と執行が認められるようになっています。世界にはいくつか有名な仲裁機関があり、それぞれモデルとなる仲裁条項を紹介していますので、これらを参考に仲裁条項を作成していただければよいと思います。日本の場合、日本商事仲裁協会(JCAA)という仲裁機関が、モデル仲裁条項を公表していますので参考になります。

また、海外の事業者との契約特有の条項として、どの国の法令に準拠するか、「準拠法」を定める必要があります。この点、日本法を準拠法にできれば、日本側にとっては予測可能性が確保でき望ましいと言えます。

ただ法律はあくまで中立なものなので、日本法を選べば必ず日本側が有利になるとは限りませんし、相手方の納得が得られない可能性もあります。そこで相手方が日本法に難色を示した場合、相手方の国の法律以外に、メジャーな第三国の法律(米国ニューヨーク州法やシンガポール法)を選択するという方法も考えられます。

また契約言語をどうするかという問題もあります。国によっては必ず現地の国の言語で契約書を作成することが義務付けられることがありますが(例えばインドネシア)、それ以外の場合でも、日本語で契約締結ができることが望ましいかといえばそうではないケースもあります。例えば、相手方の交渉窓口担当者は日本語ができるが、相手方の代表者や実際の製品の製造責任者までが日本語に通じているとも限らず、相手方との間で誤解が生じる可能性もあるからです。したがって、(状況にもよりますが)英語で作成するのが無難と言えます。

タイ特有の論点

タイの場合、先ほど申し上げたような、契約書にタイ語使用を一般的に義務付ける法令はありません。そのため、特にタイ語で作成しなければならないというわけではありません。英語で締結していただいてよいと思います。

タイ企業側が買手となる売買基本契約を締結するのであれば、タイ国内での売買代金債権回収などが問題になり得ます。日本で訴訟提起して判決を取得したとしても、その判決をタイで執行できる可能性は低いです。そのため先ほども述べたように、仲裁条項を提案した方が望ましいです。仮に紛争解決条項がなければ、タイの裁判所で申し立てることになる可能性が高くなります。しかし、この場合裁判手続がタイ語で行われることになりますので、日本側が訴訟進行を正確に把握することが難しくなるものと思われます。

また、一度作成した契約書がタイで問題なく執行できるものかどうか、タイ法の弁護士に一度目を通してもらうことも必要になると思います。特にタイ法が準拠法になっていたり、何らかの担保を設定していたりするなど複雑な内容になっている場合、その必要性が高いと言えます。

まとめ

  • タイに限らず、海外の会社と契約締結する場合は、当事者の要望が全て盛り込まれているか慎重に確認する必要があります。
  • 特に、紛争解決条項(仲裁をお勧めします。)および準拠法条項が盛り込まれているか確認しましょう。
  • タイ法の弁護士にも内容を確認してもらうことをお勧めします。
脚注
  • ¹Convention on the Recognition and Enforcement of Foreign Arbitral Awards (New York, 1958)、正式な日本語名称は「外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約」(昭和36年条約第10号)。英文及び日本語訳文は、日本商事仲裁協会の下記サイトから確認できます。https://www.jcaa.or.jp/common/pdf/arbitration/CONVENTION_jp.pdf

この記事は、2023年11月17日に作成されました。

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