パワハラを行った従業員の処分を決めたいのですがどうしたらよいですか?
加害者をいきなり解雇することは難しいことが多いため、解雇以外の懲戒処分を検討すべき場合が多いです。
はじめに~パワハラの社会的背景~
令和2年度「職場のハラスメントに関する実態調査」によれば、過去3年間にパワハラを受けたことがあると回答した従業員が31.4%もいます。
パワハラの法的な取り扱い
このような状況下で、2019年5月の法改正(通称「パワハラ防止法」)により、相談窓口の設置など企業としてパワハラが起こらないように対策することが義務付けられ、2020年6月1日から施行されました(中小企業については、2022年4月1日から施行)。
法改正により、パワハラの定義も明確になりました。パワーハラスメントとは、①職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③その雇用する労働者の就業環境が害されるものです。
実際の対応時のポイント
上記定義に照らして、部長Aの行為は、パワハラにあたることは明らかです。
まず、加害者に注意・指導し、加害者から被害者に謝罪させます。
さらに本件では、部長Aの弁明は「会社にも責任がある」という極めて不合理なものです。再発防止のため、同じ事業所で仕事をしている場合、加害者を配置転換することも検討すべきです。このような悪質なハラスメントを行う者を役職者にとどめることができないという判断に至った場合、人事異動として降格することも検討すべきです。
よくご相談いただく加害者に対する処分について説明しましょう。結論から言えば、加害者をいきなり解雇することは難しいことが多いので、解雇以外の懲戒処分を検討すべき場合が多いです。
検討の際のポイントは、以下の通りです。
- 就業規則を確認し、パワハラを理由に懲戒処分をできるかどうか確認する。
- 過去に注意・指導・処分をしていない場合、原則として、解雇以外の処分とする。
- 解雇がむずかしいときでも、悪質なケースの場合には、自主退職を促すことも選択肢に入れる。
本件で部長Aは暴行を加えていますが、裁判例では部下に対し暴行を加えた公務員に対する停職処分が無効とされた事案もあります。
パワハラを理由とした処分が無効とされた例
採用されて1年未満の消防職員に対し、肩やヘルメットの上から頭部を叩き、胸倉を掴んで揺さぶり、突き飛ばして消防署の敷地の外に押し出す等の、注意・指導等を超えた物理的攻撃を加えた職員について、停職 6 カ月とした処分が、裁判所では違法と判断された(福岡地判令和 4年 7月29日)。
まとめ
本件で、加害者への注意・指導と加害者の被害者に対する謝罪は必須です。
それだけではなく、加害者と被害者を引き離すための配置転換や人事異動として降格することも検討すべきです。
加害者を解雇する処分は、無効とされるリスクが否定できません。紛争になった場合のリスクを考慮して、自主退職を促すことも選択肢に入れるべきです。
※この記事は、2023年10月18日に作成されました。