TOPQ&A記事長年口約束で取引を続けてきた会社とも、契約書を作成すべきでしょうか。
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長年口約束で取引を続けてきた会社とも、契約書を作成すべきでしょうか。

当社では長年付き合いのある取引先とは口約束で取引をしており、契約書を作成していません。念のため契約書を作成したほうが良いのではと社員から相談されたのですが、信頼感を損なうのではないか思い、打診を迷っています。長年取引している企業と改めて契約書を作成することは、どのようなメリットがあるのでしょうか。
長年付き合いのある取引先との間では口約束で取引を継続しており、契約書を作成していないケースはたくさんあると思います。しかし、そのような大切な取引先であるからこそ、無用な紛争が生じることがないように、契約書を作成した方が良いと思います。
回答者
大橋 賢也 弁護士
川崎エスト法律事務所

取引基本契約書作成の意義

契約には、基本契約個別契約の2つがあります。このうち基本契約とは、特定の取引先と継続的に取引が行われる場合に、すべての取引に共通する基本的な事項を定める契約をいいます。継続的な取引では、取引ごとに契約条件を交渉し、合意して取引を行うことは煩雑です。したがって、継続的な取引を迅速・円滑に進めるために、基本契約を締結した方が良いでしょう。基本契約の内容を明らかにした書面が、取引基本契約書といわれるものです。売買契約、下請契約、業務委託契約などで作成されます。

取引基本契約で定める事項

取引基本契約では、個別契約に共通して適用される事項を定めます。たとえば、⑴契約の目的、⑵基本契約の適用範囲、⑶個別契約の成立時期、⑷基本契約と個別契約の優先関係、⑸契約不適合責任、⑹危険負担、⑺契約解除条項、⑻更新拒絶条項などです。

ここで注意すべき点としては、取引基本契約を締結しただけでは、個別契約について契約は成立しないということです。個々の取引は、個別契約を締結してはじめて具体的な契約が成立します。そのため、取引基本契約では、⑶に記載した個別契約の成立時期を定める必要があります。たとえば、「買主が、売主に注文書を発行し、売主が注文請書をFAX送信等したときに、個別契約が成立する」といった内容になります。

個別契約で定める事項

個別契約とは、基本契約とは別に、個々の取引のたびに締結される契約のことです。実務では、2で記載したように、「注文書」「注文請書」という表題で作成されることが多いです。

例えば、売買契約において個別契約で定める事項は、⑴目的物の詳細、⑵目的物の数量、⑶代金、⑷目的物の引渡時期・方法、⑸代金の支払時期、方法などです。

基本契約と個別契約の関係

基本契約と個別契約を定め、両者の内容に矛盾がある場合、どちらが優先されるか、という問題があります。通常、基本契約書又は個別契約書の中で、優先条項を定めるので、それに従って処理することになります。優先関係についての争いが生じることを回避するために、優先条項は必ず設けておくべきです

どちらを優先させるかについては、それぞれメリット・デメリットがあります。

基本契約を優先させる場合

基本契約を優先させるメリットは、取引全体でのルールの統一性を確保しやすいという点です。基本契約を優先させると決めておけば、個別契約書の作成を現場に任せておいても、いざというときにトラブルを解決しやすくなります。

他方、基本契約を優先させるデメリットは、個別契約において、あえて基本契約と異なる合意をしたいときに、「基本契約優先の原則にかかわらず」当該個別契約の条文が適用されることを明記しなければならず、煩雑であるという点があげられます。

個別契約を優先させる場合

これに対し、個別契約を優先させるメリットは、現場の実情に応じて柔軟に内容を変更できるということで、デメリットは、基本契約が形骸化し、取引全体でのルールの統一性を確保できなくなるということになります。

どちらを優先させるかは、ケースバイケースになってくるので、事前に弁護士に相談されることをお勧めします。

 

※この記事は、2024年11月7日に作成されました。

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