DXが進んだ部署の余剰人員を異動させたいです。
しかし、DX化によって人員が余剰になった場合、必要な要件を充足すれば、従業員に対し異動を命じることも可能です。
DX化の流れ
定型性の高い業務はAIに取って替わられるといわれています。世の中の流れに合わせる形で、企業ではAIの導入をはじめDX化が浸透しています。DX化浸透に伴い余剰人員が不可避的に発生し、企業としては人員の配置について検討せざるを得なくなってきています。
我が国における労働法制について
我が国における労働法制は、現状DX化を想定したものではありません。従業員の異動にあたっては、労働契約法上の規制が存します。具体的には、労働者の配転をするためには、①配転命令について法的根拠があること、②権利濫用(労働契約法3条5項)にあたらないことが必要になります。①配転命令については、多くの会社では就業規則の中で「業務上の都合により配転を命じることができる」旨の包括的な配転条項が設けられ、この条項を法的根拠としています。
問題は、②権利濫用の問題になります。権利濫用にあたるか否かの判断は、業務上の必要性、不当な動機・目的、本人の職業上・生活上の不利益等を考慮することになります(最判昭和61年7月14日)。
DX化による配転命令の帰趨
現状の労働法制を前提に、今回の問題を検討させていただきます。DX化に伴い余剰人員が生じているわけですから、企業としては従業員を現在の部署に留めておけず、他の部署に異動してもらうのが合理的です。したがって、従業員を配転する業務上の必要性を認定することができます。また、DX化の浸透により従業員を他の部署に配転するというのはそれだけで不当な動機・目的があるとはいえないでしょう。
さらに、本人の職業上・生活上の不利益があるか否かということについても、DX化により人員が不要になってしまっており、従業員の仕事がなくなり他の部署で働かざるを得ない状況にありますので、従業員の生活を維持するうえではやむを得ないものといえるでしょう。
以上から、DXの進展に伴い別部署への異動を命じたとして、配転命令権の濫用と認められる場合は少ないといえます。
企業として留意すべき点
このように配転もあり得るということを書きましたが、従業員の立場からすれば突然別の部署に異動させられるわけですから、不満もたまってしまいます。この不満が業務効率を低下させ、ひいては望まない労働紛争の火種になることすら考えられます。そこで、企業側としては、従業員に対し、DX化についての丁寧な説明をすると同時に、異動先についても労働者の意思を尊重しながら慎重に決定していただきたいと考えます。同時に、就業規則についてもDX化を意識した改訂を行うようにしてください。
もちろん、DX化の波を止めることはできません。従業員の側もこの流れを受け止め、リスキリングに努めるべきかと思います。
※この記事は、2024年2月26日に作成されました。