ECサイトで商品の返品を要求されたら、応じなければならないでしょうか。
カスタマーハラスメントの社会的背景~
現代の消費者社会において、事業者と消費者の関係は多様化し、複雑化しています。事業者はカスタマーのニーズに対し迅速かつ適切な対応を求められる一方、一部の消費者からの不当な要求や、言いがかりとも受け取れる苦情は、「カスタマーハラスメント」として認識されるようになりました。
消費者からの過度な圧力により事業者の円滑な事業運営が妨げられることは、社会的にも問題視されています。
カスタマーハラスメントが問題視されるに至った背景には、消費者権利の強化とインターネットの普及により、顧客が事業者に対して過剰な権利を主張しやすくなったことや、インターネットの匿名性・利便性が、偏った正義感を暴走させる装置として機能する危険性を有すること等があげられます。
カスタマーハラスメントの法的な取り扱い
事業者と消費者の取引としての通信販売(特定商取引法2条)については、契約締結後8日間、消費者は理由を問わず契約の申込みを撤回、取消できるという原則があります(同法15条の3)。そのため事業者は、商品の取り違えや欠陥が見つかった場合ではなく、一見返品の理由が見当たらないカスタマーハラスメントであっても、この原則に基づき返品に応じなければなりません。
では、事業者は常に理不尽な要求に応じなければならないのでしょうか。
特定商取引法は、この原則に関し以下のような例外を設けています。
この法的枠組みは、消費者保護を目的としつつも、事業者が不当な要求に対して一定の保護を受けるための基盤を提供します。
一般にECサイト事業者は「特定商取引法に基づく表記」と題するページ(いわゆる「特商法表記」)をウェブサイト上に掲示し、この中で返品特約を表示するという対応をとります。
なお、特商法表記の掲示は特定商取引法に基づく広告義務でもあり、事業者は返品特約に加え、特商法表記において代金、引渡時期、支払方法等を記載しなければなりません。
実際の対応時のポイント
返品特約の策定
事業者は自身の返品・交換ポリシーを明確に定め、消費者に対して透明に情報を提供する必要があります。これには、返品を認めるか否か、返品を認める場合にはそれが可能である期間等の条件、返品に必要な費用の負担の有無(送料等)が含まれます。
これらの記載については、同法15条の3の趣旨に照らし、他の事項に比し、より明瞭な方法での表示が必要です。
利用規約の策定
また、事業者と消費者間の合意である利用規約(約款)においても、①と同内容の条項を設け、あらかじめ同意を得ておくことが必要です。
社内外のコミュニケーション
また、カスタマーハラスメントに直面した場合、返品特約を遵守し、丁寧かつ一貫したコミュニケーションを図ることを徹底するとともに、やり取りの記録の保持、法務担当者、顧問弁護士や上司等に対するエスカレーションプロセスの準備が必要です。
※この記事は、2024年2月9日に作成されました。