従業員の副業を解禁する際の注意点を教えてください。
副業に関する考え方
従前は、特に正社員については、各企業が、その就業規則などによって他社と労働契約を締結して働くことを禁止することが一般的でした。ところが、厚生労働省は、働き方改革の一環として、令和2年9月及び令和4年7月に副業・兼業の促進に関するガイドラインを相次いで改定し、副業・兼業を希望する労働者が適切な職業選択を通じ、多様なキャリア形成を図っていくことを促進するとしています。
また、一般社団法人日本経済団体連合会(経団連)においても、副業・兼業を促進する内容の政策提言を行っています。
上記ガイドラインにおいては、副業を行う労働者のメリットとして、スキルや経験を得られること、自己実現を追求できること、所得が増加すること、小さいリスクで起業の試行ができるといった内容が挙げられています。
他方、企業のメリットとして、労働者の知識・スキルの獲得や、優秀な人材の獲得・流出防止に役立つこと、労働者が新たな知識・情報や人脈を入れることで、事業機会の拡大につながることが挙げられています。
従業員が副業を行う目的と会社の留意点
御社では、従業員からの副業の要望が増えてきた、ということですが、従業員の皆さんはどのような動機から副業を要望されているのでしょうか。また、それは御社の経営にとってどのような意味を持つでしょうか。例えば、従業員の皆さんが所得の増加を目指して御社とは別の職場においてアルバイト労働者のような形で働きたいということであれば、本当の問題は御社の賃金水準が低いことにあると考えられます。賃金を上げることが困難である場合は、他社に労働者として雇用されることを含めて副業を認める方針を検討することになります。その場合は、労働時間を通算して管理することが必要になりますので、上記ガイドラインを参考に、自社で運用可能な労働時間管理の方法を検討する必要があります。
逆に、従業員の要望は、自社で培ったスキルを他社において実践したい、ということかもしれません。その場合は、他社での働き方は業務委託のような、労働契約は伴わない形での副業を認める方針を検討する方がよいでしょう。その場合は、自社の情報やノウハウをむやみに他社に持ち出さないための情報管理体制を構築する必要があります。また、自社の競合での副業は基本的には認められないことになるでしょう。
いずれの場合も、副業の実態や契約形態を報告させる仕組みを作ることは必要です。事前に、副業を許可する場合と許可しない場合の基準を定めておくとよりよいと考えられます。
働き方を限定すべきか
上記ガイドラインにおいては、副業として、労働者が、複数の企業と労働契約を締結することが、ひとつの主要な選択肢として挙げられている印象を受けます。しかし、実際には、労働時間管理が相当に煩雑になるため、会社が、自社の労働者に、他社との労働契約の締結を認めることはやや特殊なケースではないかと考えています。
基本的には、自社で培ったスキルを他社で実践するという考えのもと、労働契約を伴わない働き方に限定して副業を許可するという建付けにすることを十分に検討すべきであろうと考えます。
まとめ
従業員に副業の要望がある場合に、主としてどのような動機からの要望なのかによって、許可すべき副業の内容・範囲が異なります。
導入後の労働時間管理や副業の許可の基準の作成・運用が可能かという観点から副業の許可について検討する必要があります。
※この記事は、2025年2月13日に作成されました。