能力不足の従業員を解雇できますか?
働き方改革と能力不足の従業員
企業の労務管理に大きな影響を与えた「働き方改革」は、長時間労働の是正や多様で柔軟な働き方の実現等により、女性や高齢者等の様々な労働者がそれぞれの事情に応じた多様な働き方を選択できる社会を実現し、生産性の向上を目指すものです。
しかし、同時に、少子高齢化の進行により労働人口が減少し、必ずしも多様な人材が確保できるとは限らず、今ある限られた人材一人一人の生産性の向上を目指す必要もあります。
そのなかで、従業員の一人が期待された業務をこなせず、労働生産性が低かった場合、周りの従業員にも悪影響があり企業にとっては大きな問題です。
そこで、そのような場合、生産性を上げるためにも能力不足の従業員を解雇することはできるのでしょうか。
法的に有効な解雇とは?
まず、現在の判例では、企業側が解雇の有効性を立証する責任があり、立証できなければ解雇は無効となります。
特に能力不足を理由とした解雇の場合は、解雇の有効性が厳格に判断され、基本的には単にミスが多く能力が平均的水準に達していないだけでは不十分で、「労働能力が著しく劣って、指導を繰り返しても改善の見込みがなく、業務に支障が生じている」というところまで立証出来なければ解雇は無効となる可能性があります。
正しい解雇のプロセス
能力不足の従業員に辞めてもらいたいと考えた場合は、以下のプロセスを踏んで、指導等を行っても改善せず、改善の見込みがないことを立証できるようにする必要があります。
- 能力不足の従業員に対して、相当期間、指導や注意を行い、使用者として従業員の能力向上・改善のために努力を行う。
- 指導等を相当な期間行っても改善しない場合、可能であれば配置転換や業務異動を行う。
- 改善がない場合、まずは退職勧奨を行い合意による退職を目指す。
- 退職勧奨に応じて自主的に退職しない場合には、最終的に解雇を実行する。
解雇の各プロセスのポイント
上記①のポイントは、指導等の際は文書やメールを使い指導等を行ったことを証拠化するようにし、指導等に対して従業員がいかなる反応をして、その後いかなる対応を行ったのかについて5W1Hを特定して記録することです。また、単に指導等を行うのではなく、当該従業員の意見を聞きながら具体的な目標や改善項目の設定を行ったうえで指導等を行ったり、当該従業員自身に改善策を設定させて提出させたりすることも有用です。
上記③のポイントは、基本的に退職勧奨は企業が自由に行うことが出来るものの、行う場所、時間、方法等を誤ると、退職勧奨自体が違法となり損害賠償の対象となることがあることに注意する必要があることです。
なお、上記②については、企業の状況によっては配置転換等が不可能な場合もあり、その場合はそれらが行えなくてもやむを得ません。
中途採用の従業員の場合
中途採用の従業員の場合、新卒で入社した従業員とは異なり、最初から一定レベルで業務を行うことを期待されたうえで入社している場合があります。
そのため、解雇のプロセスとして指導や注意を一切行わないということは出来ませんが、上記①の一環としての研修等や上記②の配置転換等を行わなくても、十分なプロセスを踏んだものとして解雇が有効になる場合があります。すなわち、新卒の従業員の場合と比べると解雇までのプロセスが少なくても済む場合があります。
もっとも、一口に中途採用の従業員と言っても、地位特定者・専門能力者等から一般事務職員まで様々です。中途採用の一般事務職員を解雇しようと考えた場合には、新卒の従業員を解雇する場合と同程度のプロセスを踏むことが必要となる場合もあるため、注意が必要です。
※この記事は、2025年1月16日に作成されました。