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「同一労働同一賃金」を守らない場合のリスクは何ですか?

「同一労働同一賃金」という義務があることは耳にしたことがあるのですが、正直遵守できているか不安です。同一労働同一賃金を守らない場合のリスクはどのようなものがあるのでしょうか。また、遵守にあたり、何をすべきでしょうか。
不法行為による損害賠償請求、待遇説明義務違反により所管労働局からの報告、助言、指導、勧告、企業名公表や不報告・虚偽報告の場合過料の対象となるリスク等があります。遵守にあたり①均衡処遇・均等待遇の原則の遵守のための現状確認・改善の取組、②待遇説明の方法の実施などを、厚生労働省の提供するツール利用や弁護士相談により実施するのが良いでしょう。
回答者
畠山 晃 弁護士
弁護士法人ITJ法律事務所

「同一労働同一賃金」とは

同一労働同一賃金の原則は、正規社員と非正規社員との間の、雇用形態による不合理な待遇差の解消を目的とした原則で、同原則に基づき、法改正などがなされてきました。具体的な法律名でいえば、短時間・有期雇用労働者については、短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(以下「パート・有期労働法」)、派遣労働者についていえば、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(以下「労働者派遣法」・こちらは派遣元事業主の義務)を中心とする諸規定群が改正後の法律等にあたります。これら法改正は、平成30年の働き方改革関連法によりなされました(それ以前は、旧労働契約法20条で規定されていました。)。

遵守する上で留意すべき類型

類型としては、(ア)定年後再雇用、それ以外(労働者派遣を除く)のケース及び労働者派遣のケース、(イ)条件として、基本給、賞与、退職金、諸手当と休暇を念頭に置くのが良いでしょう。つまり、パート・有期労働者の人たちが御社で働く場合に、何が問題なのか、把握するとともに、どう対応するか気を付ける必要があるといえます。

同一労働同一賃金を遵守しない場合のリスク

パート・有期労働法改正による規律は、私法関係に限らず、行政庁(所管労働局)からの監督も含みますので、これを放置することは、企業リスクにつながります。現行制度では、民事は各法律違反による損害賠償のリスク、所管労働局との関係では、待遇説明義務違反により報告、助言、指導、勧告、企業名公表や不報告・虚偽報告の場合過料の対象となるリスク等が挙げられます。

過去の裁判所の判断例や法的取扱い

パート・有期労働法8条・9条と労働者派遣法30条の3(派遣元事業主の義務)、それ以前の旧労働契約法20条の下での一連の判例が挙げられます。具体的に代表的な判例は、ハマキョウレックス事件判決最判平成30年6月1日判決、長澤運輸事件最判平成30年6月1日判決(定年後再雇用・高年法も関連)、大阪医科薬科大学事件最判令和2年1013日判決、メトロコマース事件判決最判令和2年1013日判決、日本郵便事件(東京、大阪、佐賀)判決最判令和2年1015日判決等多くあります。ほかにも、名古屋自動車学校事件最判令和5720日判決最判令和2年1013日判決も本来理解すべきものとして多くの判例・裁判例が存在します。最高裁判所の判断では、旧労働契約法20条(パートタイム・有期雇用労働法8条・9条)などの同一労働同一賃金の原則違反の効果として、同法違反としても直ちに通常の労働者と同一の労働条件が認められるわけではないとされていますが、不法行為に基づく損害賠償責任が認められています。最高裁令和5年7月20日判決などにみられるように、給付等の性質、支給目的、労使交渉の経緯等の具体的事情などの検討が要求されています。

実際の対応時のポイント

それでは、企業経営者としては、どのような対応をすべきでしょうか。基本は、まず労働者の雇用形態を確認し、正社員(職務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲等が、短時間・有期雇用社員のそれらと最も近いと事業種が判断する正社員・訴訟の場面では異なります)と非正規社員(パート、有期雇用)との待遇の差を確認します。そのうえで、差を設けている理由の確認、同違いの合理性の確認、説明の方法、合理性がないと考えられる場合には、改善計画などを検討する、という流れになります。差異について説明を求められたときのための説明方法の理解なども重要です。

実際の対応時の留意点

ただ、通常の多忙な業務などのさなかに、実際に、同法律や裁判例の中身を正確に理解し、御社の制度対応に反映させることは、とても大変かと思われます。そこで、厚生労働省が提供しているツールを利用する、または、専門家である弁護士の協力を得て、対応してゆくのが良いでしょう。パートタイム・有期雇用労働法等対応状況チェックツール(事業主の方へ)、や厚生労働省HP「派遣労働者の同一労働同一賃金について」が参考になります。その他、定年後再雇用は継続雇用を採用した場合、パート・有期労働法8条が適用されますが別の視点(「その他の事情」)等が必要となります。労働者派遣では、派遣元事業主が行いますが、(あ)均等・均衡方式、(い)労使協定方式がありますので、留意しましょう。

まとめ

以上、日本版同一労働同一賃金の原則への対応は既に始まっておりますので、職場で、定年後再雇用労働者、パート労働者、有期雇用労働者などの労働力を的確かつ問題なく活用するために、会社として対応を進めるのが良いでしょう。その際には弁護士などの専門家の助力や厚生労働省のツールなどの活用を検討しましょう。

 

この記事は、2025年1月21日に作成されました。

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