TOPQ&A記事報酬の増額を要求してきたフリーランスとの契約を解約したいです。
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報酬の増額を要求してきたフリーランスとの契約を解約したいです。

当社では、フリーランスの方に継続的な発注を行っています。
先日、ある方が報酬の増額を要求してきたので、契約の打ち切りを検討しています。
トラブル回避のために、どのような方法で進めればよいか教えてください。
もっとも無難なのは、当事者双方合意の上で解約合意書を作成し契約を終了させる方法です。フリーランスから契約終了の同意が得られる見込がない場合、契約終了日までに少なくとも30日間の予告期間を設けて終了を通知すること、フリーランスから契約終了理由の説明を求められた場合に説明できるように準備しておくことが重要です。
回答者
伊藤 崇 弁護士
弁護士法人PRO

契約終了の方式

契約終了の方式は、①解約合意、②契約更新拒絶(契約期間満了時に更新しないこと)、③契約期間中の中途解約の3つが主要なものです。このうち、①解約合意は、契約終了を取引相手も同意していることから、契約終了にまつわるトラブル回避のためにはもっとも適切な方法です。

取引相手であるフリーランスが解約合意書の締結に応じない場合には、②契約更新拒絶、③契約期間中の中途解約のいずれかを選択することになります。いずれの方法も貴社からの一方的な通知によって契約を終了させる方式です。取引相手の同意が不要なため契約を終了させやすいという利点はある反面、取引相手の同意がないことから、法規制が存在したりトラブルになりがちであったりする、という側面があります。

フリーランスとの契約終了に関する法規制~フリーランス保護新法~

②契約更新拒絶、③契約期間中の中途解約のいずれかによりフリーランスとの契約を終了させる場合、フリーランス保護新法(正式名称:特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)と下請法の2つの法規制を意識する必要があります。

フリーランス保護新法の概要

フリーランス保護新法はフリーランス保護を目的とした法律で、2024年11月までに施行が開始される予定です。

下請法によく似た法律ですが、下請法は資本金要件が存在し、親事業者(貴社)の資本金が1,000万円未満であれば下請法は適用されません。

これに対して、フリーランス保護新法にはこうした資本金要件は存在せず、以下のように従業員を使用しているか否か(1人で事業活動をしているかどうか)に着目して適用の有無が決まります。以下図の場合は、フリーランス保護新法が適用されます。

ですから、貴社の資本金が1,000万円未満であっても、貴社に代表取締役以外に役員・従業員が存在する場合には、フリーランスとの取引にはフリーランス保護新法が適用されます。

ご相談のケースでは、ⅰ予告期間ⅱ終了理由開示ⅲ買いたたき規制の3つの規制を意識する必要があります。

なお、これらの法規制が適用されるのは、一定期間以上の契約に限られます。この「一定期間」がどれだけの期間なのかは政令で定められることになっており、本書掲載時点(2024年3月)ではまだ明らかになっていません。

予告期間規制

②契約更新拒絶、③契約期間中の中途解約のいずれを取る場合でも、少なくとも30日前に通知することが義務付けられています。予告期間が不足することがないように留意する必要があります。

また、フリーランスとの契約書で30日前よりも長い予告期間が設定されている場合には、契約書の定めに従う必要がありますので契約内容の確認も必要です。

終了理由開示・買いたたき規制

加えて、フリーランスから契約終了理由の開示を求められた場合には、遅滞なく終了理由を開示することが義務付けられています。

今回はフリーランスから報酬の増額要求を受けたことが理由の一つに挙げられます。フリーランス保護新法では、いわゆる買いたたき(通常相場に比べて著しく低い報酬の額を不当に定めること)を行うことが禁止されており、値上げ要請に対して価格を据え置くことは、買いたたきに該当する場合があります。今回のご相談のケースでも、フリーランスから要求された値上げの内容次第では、これに応じずに契約を終了させることが買いたたきに該当し、違法とみなされる可能性がありますので注意が必要です。

買いたたき規制や終了理由開示の点も踏まえると、契約終了理由の整理に際しては、フリーランス側に契約不履行や不適切な行為がなかったか、同程度以上のサービスを同額ないしはより安価で提供する事業者が存在するか否か、など、フリーランスからの値上げ要請以外の契約終了理由が存在しないか整理することが望ましい対応でしょう。

フリーランスとの契約終了に関する法規制~下請法~

貴社の資本金が1,000万円以上の場合には、下請法も適用される可能性があります。
下請法でも、フリーランス保護新法同様に買いたたきが禁止されています

また、下請法の買いたたき規制は、フリーランス保護新法とは異なり、契約期間が短期間であったとしても適用される場合がありますので、注意が必要です。

そのため当社の資本金が1,000万円以上の場合も、フリーランス保護新法で述べたのと同様、契約終了理由がフリーランスからの値上げ要請のみなのかそれ以外の事情も含まれるのか整理しておくことが望ましい対応です。

実際の対応時のポイント

実際に契約終了を伝える前に、契約終了までのスケジューリングをすること、契約終了の理由を整理すること、フリーランスから合意解約への同意を引き出すための譲歩案を検討しておくことが推奨されます。

トラブル回避のためにはフリーランスと解約合意をすることがもっとも望ましいのですが、フリーランスが応じない場合には貴社から契約終了を通知する必要があります。その際に予告期間が不足していたという事態に陥らないようにスケジューリングをすることが重要です。

また、フリーランス保護新法や下請法では、報酬増額要請に応じないことが違法になるケースもありますので、契約終了事由の整理を事前にしておくことも必要です。契約終了に至る理由はフリーランス側のサービス提供の問題やフリーランスの同業他社の存在など様々想定されるところですから、増額要請だけに寄せて考えるのではなく広く終了事由を分析整理するのが望ましいです。

そして、契約終了の方式はフリーランスが同意する解約合意方式をとることがもっとも無難です。ですから、フリーランス側の同意を引き出す譲歩案の検討も事前に済ませておくと契約終了までに慌てる必要がなくなります。

この記事は、2024年2月29日に作成されました。

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