外国人を従業員として採用する場合の留意点について教えてください。
在留資格・在留期間の確認
日本国籍を有しない方(以下「外国人」といいます)が日本で働くためには、日本での就労が可能な「在留資格」と「在留期間」が必要となります。したがって外国人を採用したいと考える事業主は、まず当該外国人の在留資格と在留期限を確認する必要があります。
在留資格とは、外国人が日本で適法に滞在するための資格のことで、①外国人が日本で行う活動に応じて分類された在留資格(出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」)別表第1の上欄)と②外国人の身分や地位に応じて分類された在留資格(入管法別表第2の上欄)とを併せて、全部で29種類の在留資格があります(2024年1月時点)。
①の在留資格には、就労ができるもの(高度専門職、技術・人文知識・国際業務など)と原則として就労ができないもの(留学、家族滞在など)があります。
②の在留資格は、永住者、定住者、日本人や永住者の配偶者など身分に着目して付与される在留資格なので、活動内容に制限がなく、原則として業界や企業の別なく広く就労することが可能です。
事業主は、在留資格のない外国人を就労させることはできません。例えば「技能」の在留資格を有するレストランの料理人を、一般企業の事務職や英会話学校の講師として採用したいと考えていても、当該外国人が当該業務に従事するために必要な在留資格(例えば「技術・人文知識・国際」等)を有していなければ、当該外国人を就労させることは出来ません。
以上のとおり、外国人材の採用にあたり最も重要な点は、当該外国人が現に有している在留資格と在留期限を確認することです。仮に採用後に従事させたい業務にマッチしない在留資格を有していたり、在留期限が間近に迫っていたりするという場合は、当該外国人が出入国在留管理局で適切な在留資格への変更許可申請や在留期限延長許可申請ができるよう、必要な協力を行う必要があります。また留学や家族滞在は、原則的に就労が認められない在留資格ですので、留学生をアルバイトで雇い入れたい場合などは、資格外活動許可申請をする必要があります。
また以下の事案のように、在留資格の取得・更新等に必要な手続を失念すると、損害賠償責任を問われることもあります。
大阪地裁令和5年9月28日判決
ベトナム技能実習生について、受入事業主や管理団体が、当該実習生が在留期間の更新をするために必要な手続(技能実習計画書の認定申請)を適切な時期に行わず、これによって当該ベトナム人技能実習生が、在留資格を在留期間満期日までに得ることが出来ず、帰国せざるを得なくなったという事案で、受入企業と管理団体が合計約300万円の損害賠償を命じられた。
また、適法な在留資格のない外国人を就労させた場合、受入事業主は、不法就労助長罪(3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金。またはその両方)の責任を問われる可能性があります(入管法73条の2)。また、悪質な場合は、相当期間、出入国在留管理局から当該企業で就労する外国人のための在留資格が許可されず、事実上、外国人材の受入ができなくなることもあります。
契約内容についての正確な理解
日本での就労を希望する外国人のすべてが高い日本語能力を有していたり、日本の職場慣行や労働法を正確に理解していたりしているわけではありません。特に、採用時の労働契約の内容については、言葉の問題や説明不足が原因で、双方で異なった認識を有してしまい、就労開始後に大きなトラブルになることも珍しくありません。労働契約書や就業規則には、有給休暇、固定残業代、裁量労働制、請負・業務委託など日本人でも理解が難しい用語が記載されています。業務上のミスや自主退職の場合は、罰金・違約金を課す、など明らかに違法な契約内容が記載されていることもあり、十分に理解しないまま契約書にサインをしてしまった外国人の方が、実際に、退職時に違約金を請求されたという事例もあります。
労働者に対する労働条件の明示は受入企業の義務ですが(労働基準法15条1項、施行規則5条1項)、労働契約書や就労規則の原文が日本語で作成されている場合は、英語や中国語その他、当該外国人が正確に理解することが出来るよう訳文を添付するべきでしょう。「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針」も、以下のように規定しています。
厚生労働省のホームページでは、外国語での労働条件通知書のモデル例など「外国人労働者の人事労務に関する支援ツール」が掲載されていますので、参考にされるとよいでしょう。
まとめ
経済や人の動きのグローバル化により、企業は国内のみならず、他国の企業と優秀な人材の獲得競争にさらされています。しかし、在留手続が厳格であることは各国も同じ状況であり、外国語での契約書や就業規則のモデル例や、コミュニケーションの留意点についても、厚労省から様々な支援ツールが提供されています。国籍や性別にかかわらず、職場の仲間として尊重しあえる企業文化であれば、外国人の労務人事においても大きなトラブルはないように思います。
※この記事は、2024年1月22日に作成されました。