業績が悪化しているため、取締役全員を無報酬にしたいです。
取締役の報酬の決定方法
取締役の報酬は、定款で定めていないときは、株主総会の決議によって定めなければなりません。実務的には、株主総会で報酬額の上限を定め、個別の具体的な報酬額は取締役会の決議、または取締役会から委任した代表取締役が決定しています。
業績悪化を理由とした一方的な報酬減額の可否
このように決定された取締役の報酬額は、会社と取締役との委任契約の内容となるため、双方の合意がない限り変更することはできません。たとえその後に当該取締役の職務内容に著しい変更があったとしても、当該取締役の同意がない限り、株主総会の決議によっても変更することはできません(最判平成4年12月18日民集46巻9号3006頁)。
したがって、業績が悪化した場合であっても同様に、原則として当該取締役の同意がない限り、会社が一方的に報酬を減額することはできません。
報酬減額への同意
一旦定めた取締役の報酬の変更には本人の同意が必要となりますが、黙示の同意(明確に反対の意思表示をしない場合に同意を推認すること)を認めることができるでしょうか。
取締役の報酬等が個人ごとでなく役職ごとに定められ、任期中に役職の変動が生じた取締役に対し当然に変更後の役職につき定められた報酬等の額が支払われている会社において、当該報酬等の定め方・慣行を了知した上で取締役に就任した者は、任期中の役職の変動に伴う報酬等の減額に黙示の同意を認める見解もあります(東京地判平成2年4月20日 判時1350号138頁)。
しかし、正当な理由がない取締役解任の場合であっても損害賠償として報酬相当額が得られることとのバランスから、報酬減額への黙示の同意は認められないと考えるべきでしょう。
取締役の報酬を減額するには
このように、取締役の報酬の減額を株主総会または取締役会で決議された場合でも、当該取締役の同意なく、報酬の減額をすることができません。
ところで、取締役との契約に、任期中に一定の事由に該当した場合に一定額を減額できる旨の報酬基準を明記していれば、それが会社と取締役との委任契約の内容となります。そのためそのようなケースでは、委任契約に基づいて、取締役の任期中に業績悪化を理由とした一方的な報酬減額が可能となる場合があると考えられます。
例えば、業績悪化の具体的な指標(売上高減少率、利益率低下率、債務超過等)を定め、その指標に該当した場合に一定割合の報酬減額を行うといった条件を、取締役就任時に委任契約書で明示的に記載して、当該取締役がその内容を承諾した場合は、予め定めた報酬額を減額する事ができると考えられます。ただし、無報酬とすることはできないでしょう。
なお、取締役報酬の一方的減額は、当該取締役のモチベーションを下げ、取締役の人材不足に繋がるおそれがありますので、慎重に行う必要があります。また、取締役の同意に基づいて報酬の減額する場合、全員の同意を得られなければ、公平の観点から実施を見送るべきでしょう。
※この記事は、2024年2月19日に作成されました。