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性的少数者へのハラスメントの防止策を教えてください。

当社では、性的少数者の従業員も利用できる結婚祝金の制度を設けており、先日、従業員Aの利用の申出に基づき結婚祝金を支給しました。その後、業務上Aの当該制度利用の申出の事実を知った従業員Bが、他の従業員がいる前で、Aに対し、Aが当該制度を利用したことやAのパートナーについて言及し、祝福の声をかけました。このようなBの対応に問題はあるでしょうか?いわゆるSOGIハラを防止するにはどうすればよいでしょうか?
従業員Aが職場で自身のセクシュアリティを公表していない場合、Bの行為は、アウティングにあたり問題があります。
SOGIハラ防止のための社内環境の整備などを進めましょう。「当事者意識」を持つことも有効です。
回答者
樋田 早紀 弁護士
イマージェント法律事務所

アウティングについて

アウティングとは、他人の性的指向や性自認について、当該他人の了解を得ずに第三者に暴露することをいいます。

日本において、性の多様性に関する認識・理解が徐々に高まってきていますが、それでもまだ不十分であることは否定できず、依然として差別的言動や偏見に基づく行動も根強く存在します。このような現状のもとにおいては、アウティングは、性的少数者にとって重大な脅威になり得る行為といえ、厳に避けなければなりません¹ 。

地方自治体レベルでは、条例でアウティングの禁止を明示するところも増えています(東京都国立市、埼玉県ほか多数)。

アウティングとは、上記定義のとおりであり、行為者の善意・悪意を問いません。したがって、質問内容のBさんのように悪気がない場合であっても、アウティングとしての問題が生じます。

理解増進法の制定

性的指向や性自認に関する人権課題に向き合う国際的な潮流の中、日本では、令和5年6月23日に、性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律(令和5年法律第68号)が施行されました(以下、「理解増進法」といいます。)。

理解増進法は、全ての国民が、性的指向及び性自認にかかわらず、等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されるものであるとの基本理念を示すとともに(同法3条)、国や地方公共団体、事業主の役割を定めています。

そして、理解増進法では、事業主は、雇用する労働者の理解の増進に自ら努めるものとされ、事業主の責務が明らかにされています(同法6条1項)。また、その方法として、「普及啓発、就業環境の整備、相談の機会の確保」が例示されています。

性の多様性が尊重される社会を実現するための取組みについては、従前から、各地方自治体が、国に先駆けて条例の制定などを通じて行ってきており、国はこのような取組みに追随するものといえます。もっとも、理解増進法は、いわゆる理念法と理解されており、既存の地方自治体の取組みに及ばない点があります。事業主としては、同法は最低限の責務を定めたもの捉え、各地方自治体の取組み等をも参照しつつ、社内環境の整備等に努めることが適切と考えます²。

SOGIハラを防止するために

SOGIとは

SOGIとは、Sexual Orientation and Gender Identityの頭文字をとったもので、性的指向(SO)及び性自認(GI)を意味する言葉です³ 。したがって、SOGIとは、全ての性的指向及び性自認を包摂する概念であり、人口的にはマジョリティに属する、性的指向が異性であって(異性愛者)、出生時に割り当てられた性別と性自認が一致する人(シスジェンダー)も含む概念です。異性愛者でありシスジェンダーであることも、その他のセクシュアリティと同じく、多様な性の一つなのです。

SOGIハラとは

SOGIハラとは、性的指向や性自認に関して行われるハラスメントをいいます。たとえば、性的指向や性自認に関する侮辱的な言動、性的指向や性自認に関する性的な言動により第三者の就業環境を害する行為、アウティングなどが一例です。SOGIの上記概念から、性的少数者のみならず、全ての人がSOGIハラの被害者になり得ます。

SOGIハラを防止するために

SOGIハラは、往々にして知識不足やこれに基づく偏見などが原因となり、無意識のうちに悪気なく行われ得るものです。そのため、ハラスメント研修や学習会の実施など、各社員が性に関する正しい知識を身に着けることが重要です。また、ハラスメント防止に関する会社の方針を明確化し、これを就業規則や社内メール、掲示などの方法により社員に周知・啓発を行うことも重要です。会社自身の姿勢を明確にすることが、職場環境にも影響を与えるのです。

その他にも、会社内部又は外部の相談窓口の設置及び周知により、ハラスメントに発展する前段階で対応策を講じることが可能となります。ただし、相談員による二次加害を発生させないために、特に社内窓口を設置する場合には、相談員に研修を受講させるなど、十分な知識を身に着けさせることが必要です。

また、相談窓口の設置を周知する際には、相談者等のプライバシーに配慮するとともに、相談等を理由に不利益な取扱いをすることはない旨なども併せて周知するようにしましょう⁴ 。

ここまでお伝えしてきたことのほか、すぐにでも個々人が実践できることとして、「当事者意識をもつこと」が挙げられます。近年、LGBTという言葉が急速に普及し、性的少数者の存在が徐々に可視化されてきました。これに伴い、社会が克服しなければならない課題も明らかになってきたという点では、一歩前進といえます。

しかし、この言葉は、性的少数者とそうでない人との区別を意識させてしまうおそれがあります。SOGIの用語解説でも述べたとおり、異性愛かつシスジェンダーというセクシュアリティも、多様な性の一つにすぎません。全ての人が、性に関わる社会的な課題の当事者なのです。「他人事」と捉えると、どうしても難しく感じてしまったり、失言を恐れて課題を遠ざけたりしてしまいがちです。

まずは、多様な性のあり方を尊重できる社会の実現は、「自分事」なのだという意識をもち、これまでの自分の中の「常識」を見直すきっかけをつくっていただければと思います。

最後に

冒頭のご質問のように、慶弔休暇や育児・介護休業等の取得、慶弔支給金や扶養家族手当等の支給などの制度を性的少数者も利用できるようにするという取組みは、企業の中でも少しずつ広がっています。しかし、このような制度が制定されても、「制度の利用により、何か不利益を受けるのではないか」と不安に感じさせてしまうのでは、制度利用は促進されません。また、利用されなければ、せっかく作った制度の存在意義も乏しくなります。

制度の整備は、会社としての大きな第一歩としてとても重要なことです。しかし、全ての社員が、平等に、良好な環境のもとで安心して就業できることこそが究極の目的です。制度の整備もこの目的を実現する手段であるということを意識して、今後、ぜひ様々な取組みを進めてください。

注釈
  • ¹ アウティングは、場合によっては人格権やプライバシー権を侵害するものとして損害賠償責任等の法的責任が発生する可能性もあります。
  • ² 例えば、現代において、個人情報保護の重要性は、既に社会の共通認識となっていますが、個人情報保護の仕組化は、国の立法に先駆け、地方自治体が独自に個人情報保護条例を制定してきた歴史があります。これは、国民生活上重要な事柄について、地方自治体が先導して機動的に対応を行ってきた例といえ、性の多様性に関する取組みにおいてもこれと同様の状況にあるものと評価可能です。
  • ³ 性的指向とは、恋愛・性愛の対象がどのような性に向いているか、あるいは、向いていないかを指す語であり、また、性自認とは、自己の性に関する認識をいいます。
  • ⁴ なお、このようなハラスメント防止対策は、会社が負担する法令上の義務とも重なるものです。

この記事は、2024年1月29日に作成されました。

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