採用差別の基準がわかりません。
採用の自由には法令の制限があります
使用者は誰をどのような基準で採用するかは原則として自由です。しかし、一定の条件を満たす場合には強制的に労働契約を締結させる効果を持つ法律もあります。ご質問のケースでは、①質問や選考基準が違法であり訴訟リスクがあるものを避け、②厚労省のパンフレット「公正な採用選考をめざして」で示されているとおり、「基本的人権を尊重し、かつ、応募者の適性・能力のみを基準」として採用選考することに留意が必要です。
採用の自由の限界について定めた法令との関係について
男女雇用機会均等法では、採用について性別による差別を禁止しています。また、厚生労働省告示では、女性に対し、男性には聞かない質問をすることも認められません。例えば、採用面接で「子どもが生まれたらどうするのか」などの質問等は、能力及び資質の判断において不要のものであり男女で差別的取扱いをするもので明示的に禁止されています。男女雇用機会均等法5条は強行規定であり訴訟リスクや厚労大臣から企業名を公表されたりするリスクがあります。結婚願望を尋ねることは差し控えましょう。
厚労省作成のパンフレットは、思想良心の自由に関わることなど14項目の禁止質問を挙げていますので一読を勧めます。パンフレットの記載事項を守ることは任意ですが、守らないと採用差別になり得ます。「宗教に関すること」「家族の病歴」を尋ねるのも14項目の禁止質問にあたり、コンプライアンス上望ましくありません。
なお、三菱樹脂事件判決 (昭和48年12月12日)で思想良心の自由を理由とする採用拒否は適法であり、採用時の調査・質問も許されるとしています。しかし同判例に従って適法である、と決めつけるのは早計であり、令和の時代にマッチしていません。
令和の時代では、厚労省のパンフレットに反する質問をすることで、就活生同士のSNSでの情報交換により悪いうわさが広まったり、訴訟されたりするリスクがあります。結果的に有能な人材を集めることの妨げになるということも留意しましょう。
実際の対応時のポイント
使用者には労働者に①働いてもらう権利と②職場環境を維持する権利があります。採用担当者は、具体的に自社の職務内容(適性、能力、経験、技能)や労働環境(パワハラをしないか)に即して正当な質問をすれば、厚労省のパンフレットに反する質問をしても直ちに採用差別にはなりません。職務遂行の熱心さや残業が可能な部署への配転可能性を意図した質問であれば問題ないでしょう。宗教は職務内容と関係ないため原則質問できません。病歴については、労働安全衛生規則43条に「雇入時の健康診断」の規定はありますが病歴に関する質問及び考慮は、応募者の適性・能力の判定と合理的関連性がある範囲は質問可能です。例えば、運転手の採用であれば失神等の発作が生じないかなどです。
最近はメンタルヘルスに関し精神疾患の罹患歴を尋ねること自体は違法ではないとの考えがありますが、学説には異論もあります。
まとめ
かつての労働契約は白地性が強かったため、採用は人格評価の場となりがちでした。
しかし、採用時の「差別」は、実際は、自社の採用後の昇進などの人事政策のミラーリングであることが多く、自社の昇進や配転の選考過程の待遇に対する差別的取扱いの裏返し又は多様性の欠如に対する不満の現れという可能性にも留意しましょう。また、パンフレットも大企業を念頭においたもので一般論として採用の準備が疎かになっては本末転倒であり、自社に即した採用プロセス策定につき弁護士に助言を求めるのも良いでしょう。
※この記事は、2024年7月9日に作成されました。