小規模M&Aをする際、法務デューディリジェンスは省略できますか?
小規模M&Aの活発化
昨今、後継者不在のために事業を承継してもらう目的や、別分野に進出するための売却など、目的は様々ですが、会社の規模を問わず、M&Aのマッチングサイトなどで盛んに会社が売りに出されています。そして、こうしたサイトを利用して、実際にM&Aが成約する数も増加しています。
こんなリスクがある
ただし、M&Aを行う際、以下のリスクが考えられます。
- 資料ベースで事業内容、財務内容を確認しただけであったが、いざ蓋を開けてみたら、現実の事業内容と提出された資料と大きな齟齬があった
- 大手との取引契約があり、これを承継するのが狙いであったが、M&Aの実行後、突然、大手取引先から解除された
- 事業を実際に運営する従業員を引き継いだが、多額の未払いの残業代があり、これをまとめて請求された
- M&A実行後、税務調査が入り、過去の税務申告が過少申告であることが発覚し、多額の追徴課税を受けた
- 事業に関する許認可を承継する目的であったが、過去に行政処分を受けていた
- 帳簿には記載のない債権者が突然あらわれ、返済を求めてきた
- 取得したはずの株式は実は100%ではなく、他の株主が存在した
実際に会社を取得した後になってはじめて発覚するリスクのある問題がいくつもあり、場合によっては、買収に要した費用額以上の損害を被る可能性もあります。
買主の立場からデューディリジェンス(DD)を実施する
上記のようなリスクを未然に防ぐために、契約前に行うのがデューディリジェンス(DD)です。
これには、財務資料の正確性、資産の実在性などを検証する財務DD、ビジネスとしての将来性などを検証するビジネスDDのほか、株式の有効性や取引先との契約、許認可の承継可能性、労務リスクの存在などを多面的に調査検証する法務DDがあります。
このデューディリジェンスは、それぞれの専門家に委託することになるため、高額な費用がかかる場合があります。そのため、コスト削減のために、法務DDについてはこれを省略してM&Aを実行する例がとりわけ小規模な対象会社の場合には多くみられます。
M&Aのマッチングサイトを利用している場合、当該サイト運営者(仲介者)がある程度の調査を行い、その調査結果を提供する場合も多いです。しかし、仲介者は、M&Aを成約させることにインセンティブが働いており、必ずしも十分なリスク調査がなされているとはいえませんし、ディールブレイクとなるような要因について過小評価しがちな傾向があります。
したがって、ビジネスDDはともかく、法務DDを完全に省略してしまうのは極めてリスクが高いといえます。
スキーム選択、契約書のドラフティング
上記のDDを踏まえて、M&Aの形式として、株式譲渡なのか、事業譲渡ないし会社分割という方式をとるか、より当事者の意向に沿った適切な方法を選択します。
そして、契約書のドラフティングを行いますが、ここでも決して、あらかじめ用意されえた定型の雛形をそのまま活用するのではなく、DDにより認識したリスクを保全するために、契約書上に、調査結果を踏まえた内容を落とし込み、売主にリスクが顕在化した場合の保証条項(表明保証)をどれだけ記載できるかが勝負です。
これも、仲介者を頼りにするのではなく、あくまでも買主の立場で契約書をレビューする弁護士を独自に選任すべきでしょう。
※この記事は、2024年3月15日に作成されました。