試用期間中の従業員の本採用を控えたいです。適切な対応を教えてください。
勤務態度・成績不良、能力不足等を理由に本採用を拒否する場合には、試用期間中に適切な教育指導を施し、従業員に改善の機会を十分に与えることなどが必要です。
本採用拒否の法的性質
従業員の採用にあたり、一定の期間を試用期間として、従業員の人物や能力を評価して本採用とするか否かを判断することがあります。多くの裁判例において、試用期間中の労働契約は、最終的な採否を決定するための解約権留保付雇用契約であると判断されており、本採用の拒否は、留保解約権の行使に当たります。
試用期間中であってもすでに労働契約の効力は発生していますので、本採用拒否は一旦成立した労働契約を解消させるものであり、解雇に該当すると考えられています。
本採用拒否の有効性判断基準
試用期間が従業員の資質・性格・能力などの適格性を判断する期間として設けられていることから、本採用の拒否(=留保解約権の行使)は、いわゆる通常の解雇にくらべ使用者に裁量の幅が認められる余地があります。もっとも、解雇であることに変わりはないため、客観的で合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効となります(労働契約法16条)。実際、使用者による本採用拒否が無効と判断された裁判例は多数存在します。
本採用拒否の有効性判断基準について、判例は以下のように述べています。
三菱樹脂事件(最高裁大法廷昭和48年12月12日判決・民集27巻11号1536頁)
企業が採用後の調査により、または試用期間中の勤務状態等により、採用時に知ることができない事実を知り、その事実に照らし、引き続き雇用することが適当でないと判断することが解約権留保の趣旨、目的に合わせて客観的に相当であると認められる場合には、留保解約権を行使することができる。
実務上の対応
本採用を拒否する理由として、勤務態度や勤務成績が良くない、業務遂行能力が不足している、職場での協調性がない、といったものがよく挙げられます。
能力や適性の欠如を理由として本採用を拒否した事例においては、能力等が不足しているということの立証の程度や、不足と判断した評価の妥当性、教育指導・研修等の改善のための努力が尽くされたかが問題とされることが多いです。そして、数回程度のミスで企業側に大きな損害も生じていない場合や、業務改善の機会が十分に与えられていない場合には、本採用拒否が許されないと判断されています。
本採用拒否の有効性の判断にあたっては、当該従業員の能力不足がどの程度なのか、教育指導により改善される見込みがあるのかがポイントとなります。企業側としては、当該従業員の勤務態度や勤務成績を具体的かつ客観的に明らかにするとともに、教育指導の内容とその結果を記録しておくなど、法的紛争に至った場合の立証活動を見据えた対策を講じておくことが重要です。
まとめ
試用期間中または試用期間満了後の本採用拒否は自由に認められると誤解し、安易に本採用を拒否するケースが見受けられます。しかし、試用期間は単なるお試し期間ではありませんので注意が必要です。
本採用拒否にあたっては、それぞれのケースに応じて個別具体的な検討が必要であり、慎重な判断が求められます。法的紛争の発生リスクを軽減させるため、専門家に相談することもご検討ください。
※この記事は、2024年2月29日に作成されました。