SNSやピッチイベントで投資を呼びかけても良いのでしょうか?
目次
はじめに
「ピッチイベント」といえば、高校生のときに見ていた「マネーの虎」(日本テレビ/2001年10月~2004年3月)を思い出してしまいます。
あれから約20年とちょこっと、
政府が「スタートアップ育成5か年計画」を掲げる中、大阪市などの地方自治体でもピッチイベントが開催されるなど、現在では各地で様々なピッチイベントが開催されています。
「マネーの虎」もプラットフォームをテレビからYouTubeに変え「令和の虎」になっています(なお、マネーの虎で印象に残っているのは「パン・パン・サラダ・パン」の方です。)
有価証券届出書に関する金商法上の規制について
有価証券届出書について
さて、ご相談者様の会社が非上場会社であり、株式での投資であることを前提にお話しますと、自社に株式投資するよう呼びかける場合には、金融商品取引法(以下「金商法」)の開示規制が問題になります。
金商法の開示規制には様々な規制がありますが、発行者との関係では、有価証券届出書(以下「届出書」)に関する規制が重要です。
具体的には、新たに発行する株式(「第一項有価証券」)を取得させるために、50名以上の者に対して「勧誘」を行う場合(すなわち、「有価証券の募集」に該当する場合)で、発行価額が1億円以上になる場合には、当該株式の発行者が非上場会社であっても、当該発行者は届出書を提出する義務を負います。
なお、届出書が提出されていない状態で勧誘を行った者は、刑事罰や課徴金(行政罰)の対象となります。
届出書の作成自体にコストがかかりますし、一度届出書の提出を要するような募集を行うと、以後原則として、有価証券報告書(届出書とはまた別のものです)等により継続的に情報を開示する義務を負うことになります。そのため、リソースが限られているスタートアップでは、届出書の提出義務を負うような事態は避けるべきです。
「有価証券の私募」について
「有価証券の私募」に該当する場合には、発行価額が1億円以上であったとしても、届出書を提出する必要はありません。
「有価証券の私募」には3つの類型がありますが、その中の1つが50名未満の者に勧誘を行う場合(少人数私募)です。
この50名のカウントについては、以下のルールがあります。
スタートアップ投資においては、各ラウンドで、残余財産の分配などの株式の内容の異なる種類株式(優先株式)を発行することがみられますが、その場合、Aラウンドで発行された株式(A種優先株式)と、Bラウンドで発行された株式(B種優先株式)とは、「同種の新規発行証券」とはなりません。
なお、1億円のカウントについては、過去1年以内に行われた「同一の種類の有価証券」の募集(または売出し)の金額を通算するというルール(1年通算)があります。
ややこしいですが、1億円のカウントにおいては、上記のAラウンドで発行された株式とBラウンドで発行された株式とは、いずれも株式であることから「同一の種類の有価証券」となります。
開示規制における「勧誘」について
また、そもそも「勧誘」にあたらない場合には、「有価証券の私募」にすら該当しない(当然、「有価証券の募集」にも該当しない)ことから、届出書は問題になりません。
どのような行為が(開示規制における)「勧誘」に該当するかについては、一般に、「特定の有価証券についての投資者の関心を高め、その取得・買付けを促進することとなる行為」をいうと解されています。
企業内容等開示ガイドラインでは、有価証券の募集に関する文書を頒布することや、インターネット等により有価証券の募集に係る広告をすることは「有価証券の募集」に該当するとされています。
SNSでの投稿ついて
SNSでの投稿は不特定多数の人が閲覧することができますので、SNSで自社に投資するよう呼びかける行為は、「有価証券の募集」に該当する可能性が高いです。
「集めるお金が1億円未満であればよいのでは?」と考えるかもしれませんが、1年通算のルールがあることや、発行価額が1億円未満でも1000万円以上の場合、発行者は有価証券「通知書」の提出が必要になってくることを踏まえると、「有価証券の募集」に該当し得る行為は避けるべきであると考えます。
ピッチイベントについて
最近では様々なピッチイベントがあり、イベントの目的も交流を目的とするものや賞金が出るものと様々です。そのため具体的な状況にもよりますが、一般論としては、ピッチイベントに登壇者として参加すること自体が、直ちに「勧誘」に該当するわけではないと考えます。
また、ピッチイベントにおいて出資を募るという場合でも、マネーの虎方式で、特定の数名の虎(出資候補者)に対して、自社のサービス等をアピールし、出資を募るということであれば、当該行為は「有価証券の私募」に留まる可能性が高いです。
ただし、多数の人が参加するイベントにおいて、自社サービス等の紹介にとどまらず、具体的な募集金額などを明示するなどした資料を、多数の人に配布するなどして出資を募るような場合には、「有価証券の募集」に該当する可能性が高いと考えます。
※この記事は、2024年1月26日に作成されました。