自社が破産する場合の従業員への説明方法について教えてください。
従業員説明会では、破産に至った経緯、給与・退職金・解雇予告手当・未払金といったお金の話、雇用保険や社会保険の話等、丁寧に説明をする必要があります。その際、少しでも従業員の不安を解消するように話をすることが重要です。
目次
解雇のタイミングと再雇用について
会社破産では、裁判所が選任した破産管財人(弁護士)が財団を形成し、配当を行います。特に、破産管財人は破産申立前のお金の流れをチェックしますので、破産会社の現預金をむやみに減少させないため、破産申立て前の適切な時期に従業員を解雇する必要があります。
そして、解雇のタイミングは、破産申立予定日から逆算して決めます。いつ事業を廃止し、破産申立てを行うかは、取引先の入金・支払状況、在庫の有無、リース等の状況等、複合的な要因があります。そのため弁護士としっかり協議した上で、具体的に決める必要があります。
なお、破産に伴う清算業務(例えば、経理関係の処理、売掛金の回収等)を行うために従業員の協力が必要となる場合には、一部の従業員については解雇せず、清算業務が完了するまでの間、雇用契約を継続させるケースがあります。あるいは一旦解約した後、協力頂ける従業員を期間限定で再雇用するケースもあります。
従業員説明会について
解雇に当たり、従業員の人数が多い場合には、日時を決めて、従業員説明会を行います。説明会の日時は、破産申立予定日から逆算して決めます。
従業員説明会では、
- 会社が破産となること・従業員は解雇となること
- 従業員の給料、退職金、解雇予告手当についての説明をすること
- 雇用保険についての説明をすること
- 社会保険についての説明をすること
- 従業員の住民税が特別徴収できなくなり、従業員自らが住民税を支払う普通徴収への変更となること
等を説明し、適宜、質疑応答を行います。
その際には、後述の点に気を付けると良いでしょう。
なお、解雇の通知は口頭でも有効ですが、従業員が雇用保険の支給を受ける際に解雇通知書があれば「解雇による失業」であることを証明できるため、会社が「解雇通知書」を用意して、従業員に交付します。
従業員説明会についての注意点
破産に至った経緯の説明を丁寧にすること
従業員は突然解雇となるので、精神状態が不安定です。そのため、何故破産せざるを得なくなったのかを丁寧に説明し、これまで破産しないように頑張ってきたけれども、今回限界を迎えたため、やむを得ず破産することを丁寧に説明する必要があります。
これに対する従業員の反応は様々ですが、これまでの経営陣と従業員の関係が良好である場合、最終的に同情的な反応になったり、出来ることがあれば協力します等言ってくれる方もいたりします。
なお、代表者が金融機関やリース会社との間で、連帯保証債務を負っている場合、代表者も同時に破産をすることもあります。その場合には、代表者個人も破産になることを強調すると、比較的反発も小さくなる傾向があるように思えます。
お金の話を丁寧にすること
やはり、従業員にとっての強い関心事であるお金についての説明を丁寧に行うことが必要です。特に、給与や退職金支払いの可否、解雇予告手当について、規定に基づいてしっかり支払うことを説明し、安心してもらうことが必要です。
未払いの給与があるか否かは、経営陣による聴取やタイムカードの計算により判断します。未払いの給与が生じる場合、破産手続の開始前3ヶ月間の給料分は、財団債権として破産手続の中では最優先で支払われる債権であること、さらに、労働者救済のための未払賃金立替払制度があることを丁寧に説明するべきです。なお、当該制度を利用するには、解雇から6か月以内に申立てをする必要があるため、その意味でも、破産申立予定日までのロードマップを十分に検討することが重要です。
退職金については、後に破産管財人に否認されないように退職金規定や慣行上の支払実績を調査し、資料と共に説明できるようにしておくべきです。従業員説明会では、これらを調査し、従業員にも配慮していることを強調すると良いでしょう。
雇用保険についての説明をすること
解雇後、従業員の生活を保障する制度として雇用保険があり、この点の説明も重要です。
まず、会社は、ハローワークに雇用保険被保険者の離職証明書と資格喪失届を提出し、離職票の発行を受けます。
従業員は、ハローワークで発行を受けた離職票が必要ですので、従業員の自宅に郵送等をして交付することになります。これらについては、会社に関わっていた社労士に協力してもらうことが通常です。
なお、従業員が受給申請をした後、倒産や解雇などの会社都合の退職の場合は(受給開始まで)3ヶ月間の給付制限がなく、従業員は、速やかに受給することができますので、この点も説明をしておくと良いでしょう。
社会保険についての説明をすること
解雇により、従業員は社会保険の資格を喪失します。そのため従業員は、国民健康保険に加入する、社会保険の任意継続をする、家族の社会保険の被扶養者となるかについて、選ぶ必要があります。会社は、これらについても丁寧に説明をする必要があります。
その他
個々の会社により事情が異なるため、弁護士としっかりと協議し、従業員説明会および破産申立予定日を設定する必要があります。場合によっては、簡単に破産を決断するのではなく、キャッシュフローの見直しや、業務改善の余地がないか、事業譲渡や合併の可否、ガイドラインや再生の可否等、あらゆる方法を模索すべきです。
まとめ
破産は、しっかりと計画し最終的に決断すべきもので、十分な知識と経験が必要な分野です。本記事を読まれている経営陣の方は、苦渋の選択肢として破産を考えているかと思います。これまで頑張ってきた会社をたたむ決断をする以上、信頼できる専門家と緻密な協議を行い、様々な考慮をした結果、より良い形を模索することが、最終的には後悔のない決断になると思っています。
今回、紙面の制限がある中で、少しでもお役に立てたのであれば幸いです。
- ・中山孝雄・金澤秀樹編『破産管財の手引き』第2版、一般社団法人金融財政事情研究会、2015年、Q40の213頁(20部で破産管財人をやるときに使う書籍)
- ・第一東京弁護士会総合法律研究所倒産法研究部会編『破産管財の実務』第3版、一般社団法人金融財政事情研究会、2019年、Q7-4~Q7-6の433頁~444頁
- ・全国倒産処理弁護士ネットワーク『破産実務Q&A200問』一般社団法人金融財政事情研究会,2012年、Q21の40頁
※この記事は、2023年10月27日に作成されました。