従業員が横領していることが発覚した際の内部監査方法を教えてください。
事実関係の確認
まずは事実関係の確認をする必要があります。
不正発見の端緒は従業員からの通告ということですので、まずは通告者からの事情聴取を行うとよいでしょう。聴取のポイントは、①不正の全体像を把握すること、②その後の調査方針・範囲の当たりを付けることです。また、通告者が「自ら実際に体験した(見聞きした)事実」と「推測」とを明確に分けて聴取することが重要です。
聴取を実施した後は、聴取内容をメモにして、本人の確認を経た上で署名・押印をしてもらうのが良いと思います。
通告者からの聴取結果を踏まえて調査の計画を立て、適宜実施していくことになりますが、基本的には、まず①客観的証拠の収集を行い、その後、②必要に応じて他の従業員等からの聴取、そして最後に③不正の疑いをかけられている従業員からの聴取という流れが良いと思われます。
収集すべき客観的証拠は事案により様々ですが、基本的には「お金の流れ」を特定するために必要な資料を収集することになると思われます。会社名義口座からの不正な引出しということであれば、まず不正と疑われる引出し行為を銀行取引明細等から特定し、帳票の突合などを行って、個別にお金の流れを確認していくことになります。また、その後の賠償請求や懲戒処分等に備えるため、不正に引き出された金額についてはできる限り特定する必要があります。
客観的証拠やその他の調査結果を踏まえ、ある程度確実な事実認定を行った上で、最終的に調査対象者からの聴取を実施することになります。すぐに不正を認めるようであれば問題ありませんが、不正を認めないようであれば、客観的証拠と調査対象者の供述との矛盾点を的確に突いていくような高度な「尋問」が必要となりますし、専門的な事実認定の作業が必要となりますので、弁護士の助力がない限り、なかなか実施が難しいかもしれません。不正の規模や態様によっては、最初から調査の全体を弁護士等の外部専門家へ委託することも検討した方がよいと思われます。
賠償請求・懲戒処分・刑事告訴の検討
事実確認ができた段階で、その後の方針を検討することになります。会社として取るべき措置の選択肢は、①賠償請求、②懲戒処分、③刑事告訴などが考えられます。
不正に引き出された金額が特定できていれば、まず賠償請求をすることになるでしょう。また、経理担当職員による会社名義口座からの不正な引出しという行為の態様からは、懲戒解雇を含む厳しい懲戒処分は免れないと思われます。ただし、調査対象者が速やかに全額の返金に応じた場合、刑事告訴をするかどうかという判断には影響する場合があると考えられます。
再発防止策の検討
一従業員による会社名義口座からの不正な預金引出しという結果を招いてしまったことの背景には、何らかの内部統制上の問題があるものと考えられますので、調査対象者に対する措置とは別に、再発防止策を検討する必要があります。
したがって、どのような内部統制上の問題があって当該不正行為が発生するに至ったのかを分析し、必要な措置を講ずることになります。例えば、不正の内容が「ネットバンキングによる従業員口座への不正送金」という単純なものであれば、ネットバンキング利用時における決裁権限の分配に問題があると考えられますので、決裁者を上長に指定する等の対応が考えられます。
まとめ
以上のとおり、不正の調査・監査は、発覚当初より慎重に進める必要があります。また、事案によっては高度で専門的な知見を必要としますので、必要に応じ、適切に弁護士等の外部専門家のサポートを受ける必要があると考えます。
※この記事は、2024年6月4日に作成されました。