経営不振で従業員の給料を減額したいのですが、どう対応すれば良いですか?
はじめに
整理解雇により人件費を削減する方法もありますが、賃金減額には、雇用関係の維持や業績回復後に賞与等で事後的に減額の不利益を回復させることが可能といったメリットがあります。
以下、このような賃金減額の方法等につきご説明します。
給料の減額の方法と法的規制
個別合意
まず、従業員と個別に「合意」(労働契約法8条)して減額する方法がございます。当該「合意」の前提となる従業員の承諾は、自由な意思に基づいたものである必要があります。自由な意思に基づくか否かは、①形式的に承諾したか否かだけでなく、②不利益の程度、③承諾の経緯や態様、④会社の説明の有無等の事情を踏まえて判断されますので、単に減額の合意書面があれば足りるというものではありません。
なお、個別「合意」の内容が就業規則を下回るときは、併せて就業規則の変更等が必要となる点にも注意が必要です(同法12条)。
就業規則の変更
次に、就業規則を変更して賃金を減額する方法がございます。労働者にとって一方的な不利益変更は許されませんが(同法9条)、当該変更が「合理的なもの」であり、かつ変更後の就業規則を周知させた場合には、例外的に変更が許されます(同法10条)。
そして、「合理的なもの」であるか否かは、同条に定められた様々な事情(不利益の程度、変更の必要性等)を踏まえて判断されます。もっとも、 賃金減額などの重要な労働条件の不利益変更のケースでは、当該不利益を労働者に法的に受忍させることを許容できるだけの「高度の必要性」等が要求され、他の不利益変更に比してハードルは高くなる傾向にあります。
労働協約
これら以外に、労働組合のある会社では、組合との間で労働協約を締結して賃金を減額する方法がございます(同法13条、労働基準法92条、労働組合法16条)。
実際の対応時のポイント
まずは、会社として、給与減額に代わる解決策がないか、どの程度の人件費を削減しなければならないのか、また、それを実現するためには、どの程度の期間、いくら減額する必要があるか、を具体的に検討する必要があります。
そして、検討結果を従業員に十分に説明し理解を得る必要があります。従業員との摩擦を避けるためにも、また真意の合意を得るためにも、十分な検討期間を従業員に与える必要もございます。また万が一の紛争に備え、各過程において書面を作成して保管しておくことなども重要となります。
まとめ
賃金の減額は、労働市場の変動や法的規制など、多くの要素を踏まえた個別的な検討が必要となります。そのため 実施にあたっては、紛争予防の観点からも、法律家に相談しながら対応することをお勧めします。
※この記事は、2024年2月19日に作成されました。