中国人の妻と国際離婚したいです。
離婚する際の手続きや注意点を教えてください。
国際裁判管轄
協議離婚に合意できない場合には、日本人同士の離婚同様、調停や訴訟の手続で離婚請求することとなります。しかし、当該離婚事件をそもそも日本の裁判所で審理できるのか最初に確認する必要があります。
相手方(妻)が別居後も日本国内にいる場合は、日本での国際裁判管轄が肯定されます。
他方、相手方が出国帰国済の場合は、次のいずれかの場合にのみ日本での国際裁判管轄が肯定されます¹。
ア 別居前に最後の共通の住所が日本国内にあったとき
イ 相手方が行方不明であるときその他日本の裁判所で審理することが当事者の衡平、適正・迅速な審理に資する特別な事情があるとき
国際裁判管轄が否定されると、協議不調の場合は、被告所在地の中国の人民法院での離婚調停となり困難を極めます。
日本での国際裁判管轄があれば、協議が不調でも、離婚調停や訴訟による判決離婚が可能となり、手続を進めやすくなります²。
適用される法律(準拠法)
本設例では、日本の家庭裁判所で調停・訴訟するにあたっては、日本法が離婚準拠法となります³。
そのため、裁判所の審理手続や判断基準も日本人夫婦の離婚事件と同じです。
例えば、親権、養育費、財産分与、面会交流などの判断基準や算定基準は、基本的に日本人夫婦と同様です⁴。
離婚成立後の届出
調停調書や離婚判決の謄本を役所に届出すれば、相手方の協力がなくても、日本の戸籍上は離婚が成立します。
しかし、婚姻時に中国でも婚姻登記(相手方地元民政局発行の赤色の結婚証)をしている場合には、中国国内では相手方との婚姻関係が自動的には消滅しません。
したがって、本来は、相手方協力のもと中国国内の民政局に改めて離婚登記の申請⁵をして、中国国内での婚姻関係も消滅させる必要があります。
とはいえ、調停や訴訟を経てようやく離婚に至った状況で、連絡もままならない相手方の協力を得ることは事実上困難です。また、将来中国国内で再婚予定がなければ、実際上不都合もありません。そのため、中国国内での離婚登記は断念することも多いのが実情です⁶。
相手方出国後の強制執行の注意
調停調書や離婚判決で定められた給付条項⁷は、日本国内の相手方財産にのみ強制執行できます。中国に所在する相手方名義の財産⁸には、日本の裁判所から差押えができません。
そのため、調停離婚や訴訟上の和解による離婚をする場合は、不履行も見据えて日本国内の相手方財産だけで強制執行見込みがあるかどうかも検討する必要があります⁹。
まとめ
中国人の妻との国際離婚では、離婚原因だけではなく、裁判所での離婚調停や訴訟が可能か(国際裁判管轄)を意識しながら、協議段階でどこまで譲歩して離婚を成立させた方が得策か、検討する必要があります。
離婚成立後の中国国内での届出や強制執行の困難性もよく理解しておく必要があります。
- ¹ 家事事件手続法第3条の13第1項第1号、人事訴訟法第3条の2第6号、 第7号
- ² 合意による協議離婚は本設例でも可能です。
- ³ 法適通則法第27条但書(いわゆる日本人条項)
- ⁴ 相手方帰国後の収入見込み等の一部事情が考慮される場合があります。
- ⁵ 相手方の地元民政局によっては、在日本中国大使館による調停調書や判決謄本の領事認証があれば、当事者一方だけの離婚登記申請でも受理される場合があるようです。しかし、日本人が相手方の協力なく、中国民政当局に単独で離婚登記申請をすることは現実的ではありません。
- ⁶ これを考慮して最初から中国国内での婚姻登記は申請しないケースも多く、稀に、数年後に突然、中国国内で再婚をしたい相手方の方から中国国内での離婚登記の協力を求められることもあります。
- ⁷ 養育費や財産分与の金銭支払条項
- ⁸ 預貯金、給与債権、不動産等
- ⁹ 中国本土は子の連れ去りに関するハーグ条約未締結。
※この記事は、2023年11月7日に作成されました。