輸出製品が輸送中の船で滅失した場合、当社が損害賠償責任を負いますか?
危険負担の移転についての合意
目的物の滅失についていずれの当事者が責任を負うかについては、当事者間の契約において合意されるべき問題です。いずれかの当事者の責に帰すべき事由による滅失については、多くの場合、帰責性のある当事者が滅失による不利益を甘受することとされます。もっとも、国際取引には長距離輸送特有の危険を伴うことから、いずれの当事者にも帰責性のない事由により目的物が滅失してしまうこともあり得ます。そのような場合、危険負担の問題として、いずれの当事者が滅失による不利益を負担するのかを契約中で定めておく必要があります。
例えば、輸送中の商品が船内で滅失したときの危険を売主が負担する場合、買主は代金の支払義務を免れることができます。これに対し、かかる危険を買主が負担する場合、買主は滅失した商品の代金の支払義務を負い続けることとなります。
インコタームズ
インコタームズとは、International Commercial Termsの略称で、国際商業会議所(ICC)により制定された国際貿易取引条件です。インコタームズは約10年に1度改定されており、最新版は2020年1月1日から適用される「インコタームズ2020」です(本記事執筆時点(2024年11月))。
目的物の危険負担の移転の時点は、売主と買主が交渉の上で自由に取り決めることができますが、実務上、危険負担の移転時期を含むインコタームズのいずれかの貿易条件を合意することが多いです。国際的に統一されたインコタームズを使用することで、貿易取引条件の解釈がそれぞれの国で異なることに起因するトラブルを防ぐことができます。
インコタームズでは、売主と買主との間の危険負担、費用負担、保険負担について、全11パターンの規則を定めています。海上輸送で頻繁に用いられるCIF(運賃保険料込)やFOB(本船渡)では、船積港において商品が本船上に置かれた時点が危険負担の移転時点とされています。
危険負担についての契約交渉時のポイント
一般に、危険負担の移転については、早いほど売主有利、遅いほど買主有利と考えられています。
しかし、国際取引における貿易条件の合意にあたっては、商品の性質、輸送の手段、当事者の資力や能力、実務上の利便性など、様々な事情を考慮しなければなりません。例えば、商品が本船上に置かれたときをもって危険負担の移転時点とするとしても、売主が船積後の積付け(商品の配置や固定)の作業まで行う場合には、積付けまでを売主の責任とすることが合理的ともいえます。また、買主が資力や経験に乏しく、貿易実務を任せられる能力がないにもかかわらず、買主へ過度に広範な負担を課すことは現実的ではありません。
契約交渉にあたっては、単に危険負担の移転時期のみに着目して有利な条件を得ようとするのではなく、その他の様々な要素を勘案した上で、合理的かつ実現可能な貿易条件を合意する必要があります。輸送中の商品滅失のリスクについて、相手方へ負担を求めるのか、それとも保険加入により自社でリスクヘッジするのかなど、個別具体的な事情を踏まえた検討が必要です。
まとめ
国際取引にあたっては、貿易条件の合意に加え、信用状、通関といった国内取引とは異なる手続が必要となることがあります。商品滅失を含む様々なリスクを想定し、これらに備えるために、知識と経験を有する専門家と相談をしながら契約条項を作成して、輸出ビジネスを進めていくことが重要となります。
※この記事は、2024年11月7日に作成されました。