無担保貸付けで債権を焦げ付かせた取締役に、損害賠償請求をしたいです。
取締役の任務懈怠(経営判断の原則)
取締役は、会社との間で委任関係にあるので、会社に対して善良なる管理者としての注意義務(善管注意義務)を負っています。判断を誤って会社に損害を与えた場合は、この善管注意義務の違反を問われ、損害賠償の責任が発生します。
ただ、会社の経営は、流動的で時間的制約のある中で決断を迫られたり、ときにはリスクをとって挑戦したりする必要がある場合もあり、その経営判断には広い裁量が認められるべきです。判例上も、決定の過程、内容に著しく不合理な点がない限り、善管注意義務に違反するものではないとされています(経営判断の原則)。
他企業に無担保で貸付けをするという状況ですが、金融機関から借り入れもできず、担保に供せる資産もなく、経営が行き詰っているとすると、回収の可能性は低いと考えられます。そうすると自社にとっての貸付けの必要性と利益、支援をしなかった場合に自社の被る不利益、貸付け後の相手企業の資金繰り予測などの要素を相当慎重に検討しなければ、善管注意義務違反の問題はクリアされないと思われます。
誰がどうやって請求するか
取締役の責任が認められた場合、会社の損害額は焦げ付いた貸付債権の全額になります。
まずは、会社から取締役に対して損害賠償の請求をしますが、それでも支払いがされないときは裁判を起こさざるを得ません。監査役設置会社の場合は監査役が、監査役設置会社以外の場合は原則として代表取締役が会社を代表して訴えを起こすことになります。また会社が取締役に対する責任追及をしない場合に、株主が会社に代わって損害賠償請求訴訟をする制度があります(株主代表訴訟)。
留意点(他の取締役の立場、保全措置)
任務懈怠の責任を負うのは、独断的に貸付けを実行した代表取締役や、担当した取締役に限らないので注意が必要です。取締役会で議案に賛成した取締役はもちろん、実際には議案に抵抗したけれども議事録に異議をとどめなかった取締役も、責任追及の対象になり得ます。取締役には他の取締役の業務執行を監督する義務があるためです。
取締役に対する損害賠償請求訴訟で勝っても、強制執行しようとしたら財産がなかったということになると判決は絵に描いた餅です。取締役が財産を処分したり隠匿したりしないように、裁判を起こす前に財産の状況を調査して、必要に応じて、資産を凍結する仮差押の手続きを行うかどうか検討するのがよいでしょう。
まとめ
独断的な無担保貸付けは取締役の責任が認められやすい典型例です。貸付けの議案に対してなかなか異論を唱えにくいときでも、他の取締役としては、必要に応じて反対意見を述べ融資実行を止めさせることが大切です。それでも不当な貸付けが実行され、貸し倒れが生じたときは保全手続きを活用してしっかりと損害の回復を図っていきましょう。
※この記事は、2024年2月2日に作成されました。