虚偽の内部通報をした従業員を懲戒処分すべきでしょうか?
このような虚偽の通報をした従業員について、何らかの対応をしたいのですが、懲戒処分をすべきでしょうか。
内部通報制度の重要性
昨今の報道などを見るまでもなく、会社において不正やハラスメントなどの不祥事といった問題が発生しますと、レピュテーションが低下し、会社は大きなダメージを受けることになります。
そのため、会社としては様々な問題を早期に認識、把握し、適時適切な対応をとることが必須です。これを実現するための有効な取組の一つが、内部通報制度です。内部通報制度の仕組みを設置し、これを適切に運用することは、現代社会において極めて重要な事項となります。
なお、内部通報のうち、公益通報に該当する通報については、公益通報者保護法という法律が、会社が行うべき対応等について定めています。
懲戒処分の是非
懲戒処分を行うためには、従業員に業務命令や服務規律に違反した行為がなければなりません。
しかし、自らが当該事実があると考えて内部通報をした結果、当該事実の存在が認められなかったとしても、それをもって業務命令や職務規律に違反した行為があったと考えられるものではありません。
もっとも、従業員が嫌がらせ目的や会社を困らせる目的をもって故意に虚偽の事実を通報したことが認められる場合には、服務規律等に違反した行為があったとして懲戒処分を行うことができる場合もあり得ます。しかし、このような事実が認められることは、極めて例外的な場合に限られるものと考えられます。
なお、内部通報制度の重要性を考えますと、調査の結果、通報した事実が認められない場合に懲戒処分をなされるリスクがあるとなった場合には、通報それ自体を躊躇するおそれが生じることも、考慮しておく必要があります。
調査の限界
また実際の実務にあたっては、内部通報に対する調査には限界があります。
内部通報があった場合に、会社はその通報内容を鵜呑みにするのではなく、事実の存否について調査をします。
しかし、会社の調査は、警察や検察のように強制力をもった証拠収集手続を行い得るものではなく、通報者や被通報者の任意の協力を求めるしかありません。また、例えば証人尋問などのように、証言の真否をチェックする手続をとることもできません。
このため実際の調査においては、証拠の収集としても、また証言の真否の認定においても、真実発見という観点からは限界があります。従いまして、通報された事実が認められないという調査結果になったとしても、「当該事実が絶対に存在しない」ということが認定されるものではなく、「当該事実が存在すると認定できるだけの確証は得られなかった」という点にとどまることが多いことも留意しておく必要があります。
まとめ
不正や不祥事は完全に防止することができれば、それが一番望ましいです。
しかし、実際の会社運営において不正や不祥事をゼロにすることは極めて困難です。このため、会社運営にあたっては、従業員がより通報し易い制度づくりとその運用を心がけることが重要です。
※この記事は、2024年1月4日に作成されました。