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内部通報を取り扱う際の注意点を教えてください。

「営業部の従業員が架空の経費を計上している」との通報がありました。
これから通報に対応しようと思うのですが、どのような点に気を付ければよいですか?
内部通報を取り扱う際には、通報者が不利益を受けないようにする必要があり、そのためには通報者の身元が明らかにならないようにすることが非常に重要です。また、通報窓口以外になされた通報であっても、同様に慎重な取扱いが求められますので、注意が必要です。
回答者
大森 景一 弁護士
大森総合法律事務所

はじめに

このような情報が得られた場合、会社としては、事実関係を調査し、必要があれば懲戒処分などの必要な措置をとることになります。

しかし、内部通報によってその情報が得られた場合には、いくつか注意しなければならない点があります。

内部通報に関する法律上の定め

公益通報者保護法は、「公益通報」を行った者に対して、不利益な取扱いをすることを禁止しています。

「公益通報」に当たるかどうかの法律上の要件は非常に複雑で、一言で説明することは困難なのですが、おおまかにいうと、事業者内部で違法行為が現に行われ、あるいは行われようとしていることを通報することをいい、通報先は事業者内部であっても事業者外部であっても公益通報に当たりえます。今回の内部通報も「公益通報」に当たるものと考えられます。
そのため、公益通報を行った者に対して、不利益な取扱いがなされないようにしなければなりません。もちろん、通報を行ったことに対してマイナスの評価を行うことなどは論外ですが、経営者としては、通報者が社内で不利益な取扱いを受けないようにしなければなりません。

なお、常時使用する労働者の数が300人を超える事業者の場合には、公益通報者保護法により内部通報体制の整備が法律上求められ(公益通報者保護法11条)、内閣府の定めた指針(正式名称は「公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針」。以下、「指針」といいます。)に沿って体制整備を行う義務があります。そして、その指針においては、通報者に対する不利益取扱いを防止するための措置をとることが明示的に求められています(第4・2(1))。

実際の対応時のポイント

現実問題として、誰が通報したのかが明らかになってしまうと、通報者が不利益を被ってしまう可能性はどうしても高まります。そのため、会社としては、内部通報を取り扱う際には、通報者の身元が明らかになりかねない情報の取り扱いについて、特に注意する必要があります。

通報内容によっては、氏名などの個人情報を秘匿したとしても、他の情報から通報者が誰かということが明らかになってしまうことが珍しくありません。調査担当者には、必ずしも通報者を特定する情報を知らせる必要がないのが通常ですし、調査の端緒が内部通報であったということも明らかにしない方がよい場合が多いと考えられます。

事案によっては、調査の過程で通報者が明らかにならないように、通報事実に限定せずに他部署も含めて広めに調査を行ったり、通報が端緒であることが明らかにならないように、あらかじめアンケート調査などの一般的な調査を行った上で本格的な調査に入ったりすることも考えられるでしょう。

なお、指針においては、範囲外共有や通報者の探索を防止するための措置をとることが求められています(第4・2(2))。

気を付けるべきポイント

2020年の公益通報者保護法改正により、公益通報対応業務従事者として指定された者には、守秘義務が課されることとなりました(公益通報者保護法12条)。

しかし、そのような公益通報対応業務従事者に対する通報だけが公益通報になるというわけではありません。従事者や通報窓口に対してなされた通報だけでなく、経営陣や上司などに対してなされた通報も、公益通報となりえます。

そのため、通報窓口に対してなされた通報ではないからといって、不用意に取り扱うと後々問題になりかねませんので注意が必要です。特に社内の管理職には周知を図っておくべきでしょう。

内部通報への対応を改善するためにできること

内部通報は、社内の重大な問題を把握するための最も有効なツールの1つです。そのため、法律上求められる最低限のことだけをやっていればよいというものではありません。

調査が終了した後は、調査の結果について、支障がない範囲で、通報者に通知することが求められます(指針第4・3(2))。自らの通報の結果がわからなければ通報のモチベーションを失わせかねませんので、指針の適用のない事業者であっても結果の通知はおこなうべきでしょう。

さらに、このような不正行為の通報に対しては、組織のトップが肯定的な評価をすることも重要です。特に、不正の是正や業務の改善に結びついたような場合には、機会を見てトップが肯定的なメッセージを発信することで、社内の風通しがよくなり、重大な情報が経営陣に上がって来やすくなるはずです。

なお、このような内部通報の一連の処理をスムーズかつ安定しておこない、従業員に安心感を与えるためには、内部通報制度を整備しておくことも重要です。現在、公益通報者保護法に基づく内部通報体制整備義務が課されているのは、常時使用する労働者の数が300人を超える事業者のみです(公益通報者保護法11条)。しかし、そのような法律上の義務の有無にかかわらず、内部通報制度は整備しておくべきでしょう。そして、その際には、内部通報制度の構築・運用に関するノウハウのある弁護士のサポートを受けるとよいでしょう。

この記事は、2024年1月11日に作成されました。

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