任期の途中で取締役が死亡した場合、どのように対応すれば良いですか?
報酬や退職慰労金はどうなるのでしょうか?
取締役の員数が法令定款の最低員数を下回る場合や、退職慰労金を支給する際は、株主総会の決議が必要です。
株主総会の招集が困難な場合には、他の取りうる手段を検討する必要があります。
契約関係の終了
株式会社と取締役との関係は、委任に関する規定に従います(会社法330条)。
委任は、受任者の死亡により終了します(民法653条1号)ので、取締役が死亡した場合は、当然に取締役を退任することになります。
したがって、取締役の地位は相続の対象にはなりません。
なお、労働契約については、委任と同様の定めがあるわけではありませんが、労働者の死亡により当然に終了すると解釈されています。そのため、使用人兼務役員が死亡した場合は、委任関係も雇用関係もどちらも終了します。
必要となる手続き
死亡により取締役退任となるため、法務局に対し退任登記を申請することになります。
取締役の死亡により、法律や定款で定められた最低員数を下回る場合、補欠取締役の選任がなされていないときは、速やかに後任者を株主総会において選任する必要があります。
例えば、取締役会設置会社の場合、取締役の法定の最低員数は3名です(会社法331条5項)。そのため、取締役が3名だけの取締役会設置会社で取締役が死亡したときは、2名の現存取締役により株主総会招集の取締役会決議を行い、後任取締役を選任することになります。
上記の例では、取締役会の定足数が2名になる(現存取締役数が法律・定款に定める取締役の最低員数を下回る場合には、法律・定款に定める最低員数を基準に過半数)と解されます。そのため、取締役が2名同時に死亡(交通事故や自然災害などでは起こり得ます)したとすると、現存取締役1名では取締役会決議を適法に行うことができなくなります。
そのようなケースでは、株主全員の出席による全員出席総会(招集手続を省略可)や、株主による株主総会招集許可の申立てを行う(会社法297条4項)といった代替手段を取る必要が生じます。
死亡した取締役が株主である場合には、相続人の協力が必要になることもあります(株式は、取締役の地位とは異なり、相続の対象になります。)。
株主総会の開催が困難なときは、裁判所に一時取締役の選任を請求する(会社法346条2項・3項)ことが選択肢になります¹。
必要最低限の取締役しか選任されていない場合などには、即時の対応に支障が生じることがあります。特にオーナー経営者が突発的に死亡した場合などには、対応に困難をきたすケースもありますので、注意が必要です。
役員報酬や退職慰労金の支給について
取締役はその死亡により退任しますので、死亡日までの役員報酬を支給することになります。会社と取締役は委任関係であるため、雇用関係とは異なり、報酬の日割計算は馴染まないという考えもありますが²、委任関係であることのみを理由として日割計算ができないとする根拠は乏しいようにも思われますので、月額報酬を支給するか、日割計算するかは会社の選択によると考えます。
退職慰労金の支給については、会社法361条の報酬に当たり、定款にその額の定めがなければ、株主総会決議が必要です(死亡取締役に対しては弔慰金として支給されることもありますが、同様に株主総会決議が必要と考えられています)。退職慰労金規程が存在することのみでは支給できませんので注意してください³。
退職慰労金規程の内容によっては、死亡した取締役の相続財産となるのでなく、特定の人物(配偶者など)の固有財産になる場合があるので、適切な支給相手などの確認が必要になります⁴。
- ¹ 取締役の員数が最低員数を下回った場合について、松田亨・山下知樹編、大阪商事研究会著『実務ガイド 新・会社非訟[増補改訂版]』(金融財政事情研究会、2016年)119頁以下を参照。
- ² ネット上ではそのように解説する専門家(特に税理士)が多いようです。
- ³ 森・濱田松本法律事務所編、渡辺邦広・邉英基著『新・会社法実務問題シリーズ/5 機関設計・取締役・取締役会[第2版]』(中央経済社・2021年)145頁など。
- ⁴ 田村洋三・小圷眞史編著『第3版 実務 相続関係訴訟 遺産分割の前提問題等に係る民事訴訟実務マニュアル』(日本加除出版、2020年)42頁。
※この記事は、2024年2月26日に作成されました。