原材料が値上がりしているのに、元受企業が価格転嫁に応じてくれません。
下請法の適用範囲
貴社と元受企業との間の取引は、下請法上の製造委託に該当すると思われます(下請法2条1項)。この場合、貴社(下の図で「下請事業者」)の資本金の額と元受企業(下の図で「親事業者」)の資本金の額が以下の関係に該当すると、下請法の適用を受けることになります。
下請法の規制
下請法の適用があると、親事業者(本件の場合は元受企業)には、4つの義務と11の禁止事項が課されることになります。本件の場合、禁止事項のうちの「買いたたき」(4条1項5号)が問題になります。
「買いたたき」とは、「下請事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額を不当に定めること」ですが、下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準上は、「労務費,原材料価格,エネルギーコスト等のコストが上昇したため、下請事業者が取引価格の引上げを求めたにもかかわらず、価格転嫁をしない理由を書面、電子メール等で下請事業者に回答することなく、従来どおりに取引価格を据え置くこと」も、買いたたきのおそれのある行為とされています。
本件へのあてはめ
本件では、元受企業側は、貴社が原材料価格の高騰を理由に部品の値上げを要請したにもかかわらず、これを拒否しています。とすると、現在の公正取引委員会の「買いたたき」に対する考え方からすると、元受企業の対応は、この「買いたたき」に該当するおそれがある行為であるといってよいでしょう。
なお、本件では詳しくは触れませんが、仮に貴社と元受企業との間で下請法の適用がないとしても、元受企業が貴社に対して優越的な地位にあるといえれば、独占禁止法上の「優越的地位の濫用」(2条9項5号)に該当することも考えられます。
まとめ
適切な価格転嫁の実現については、現在政府の重要な課題とされ、買いたたきについても、その見直しが検討されています。そういった背景も踏まえ、親事業者に対しては、適切な価格転嫁の必要性を示し、粘り強く交渉するようにしてください。なお、その場合、単に原材料の価格が高騰しているから値上げしてほしいと申し入れるのではなく、どの原材料がどの程度上がり、それが製造コストの上昇にどの程度関連してくるのかを数字をもって示せるとよいでしょう。
今回のケースのように、解約をちらつかせるなど、そもそも誠実に交渉に応じないような相手方については、公正取引委員会や中小企業庁に対して違反行為の申告を行うなども検討されるとよいでしょう。
※この記事は、2024年8月5日に作成されました。