映像制作のための原作使用許諾契約書の締結が事後的になりそうです。
なぜ原作者との契約が必要なのか
映画やドラマなどの映像作品を制作する場合、オリジナルの場合もありますが、小説、漫画、ゲーム、既存の映像作品などを原作として、映像作品を制作することが多いです。
著作権法では、原作の著作権者だけが、原作を利用して映像作品を制作できることになっています(著作権法27条)。そのため、原作からの映像化にあたっては、権利処理が必要になります。著作権そのものを譲り受ける方法もありますが、多くは、使用許諾(ライセンス)を受けることによって、権利処理を行っています。
契約は、口約束でも成立しますが、原作を使用した映像作品では、原作者との契約は非常に重要なもので、事後のトラブルを避けるために、通常は、原作使用許諾契約書を作成することによって、使用許諾を受けています。契約の相手は、原作者であることもありますが、原作者から権利の管理を委託された出版社であることもあります。
契約書を交わさないと制作が頓挫するリスクがある
実情としては、原作使用許諾契約書を締結する前に、映像化の制作を開始することは多いです。しかし、契約書を締結することなく、制作に着手した場合、後になって、原作サイドから映像化について最終的な承諾を得られない場合もあり、その場合、映像作品の制作を続けることができなくなってしまいます。また、それまでにかかった制作費も製作サイドが負担しなければならないことになります。
実際に映像化が頓挫したケース
過去の裁判例では次のようなケースがありました。
あるテレビ局が、小説を原作として、テレビドラマ化(1話45分の全4話)するにあたり、この小説の権利を管理する出版社から、ドラマ化に向けて作業を進めて良い旨の回答を得て、契約書を締結しないまま、脚本家に脚本執筆を依頼し、出演者の選定、音楽・美術の制作など、制作に着手しました。
脚本は、1話と2話は第3稿まで、3話と最終話は初稿まで執筆され、テレビ局と出版社との間で、脚本会議が重ねられました。しかし、原作の改変内容の折り合いがつかず、出版社が、クランクインの直前、企画を白紙に戻すことを決定し、制作は頓挫することになりました。
この事案で、裁判所は、テレビ局と出版社との間で、映像化許諾契約が成立するのは、出版社による脚本の最終承認時であり(※ただし、この事案に基づく判断で、契約の成立時期は、事案によって異なると考えられます。)、脚本の制作段階では、まだ契約は成立していないため、出版社が一方的に企画を白紙に戻したとしても債務不履行等はなく、テレビ局は、そこまでにかかった制作費を損害として、出版社に賠償を求めることはできない、と判断しました。
二次利用に影響する場合もある
映像作品の場合、一次利用のみならず、その後の二次利用も予定されていることが多いです。そのため、原作使用許諾契約書では、原作者との関係で、問題なく二次利用することができるような内容を定めることになります。
契約書がないまま制作に着手して、原作サイドと揉めてしまった場合、仮に、映像化できて一次利用まではできたとしても、その後に予定していた二次利用ができなくなってしまうこともあります。
それでも契約書がないまま進めたい場合には
とはいえ、現実的には制作の着手前に契約書を締結することは難しいことも多いです。また、製作サイドにも様々な事情があると思います。
専門家のアドバイスを受ければ、契約書がないまま進めるにあたっても、リスクを最小化できる場合もありますので、専門家に相談して進めるのも良いかもしれません。
※この記事は、2024年8月7日に作成されました。