TOPQ&A記事アルバイトが恒常的に廃棄食品を黙って持ち帰っていたことが発覚しました。
SHARE

アルバイトが恒常的に廃棄食品を黙って持ち帰っていたことが発覚しました。

当社は飲食業を経営しています。食中毒の心配があるため、廃棄食品の持ち帰りは禁止としているのですが、先日、アルバイト社員が恒常的に廃棄食品等を持ち帰っていたことが発覚しました。アルバイトに対してどのような処分が可能でしょうか。また、再発防止のために、社内でどのような対策をすべきでしょうか。
持ち帰りが懲戒事由に該当する場合は、懲戒処分ができますが、あまり重すぎないように注意する必要があり、社内開示には注意を要します。
回答者
浜辺 陽一郎 弁護士
弁護士法人早稲田大学リーガル・クリニック

持ち帰りに対する懲戒処分

廃棄食品でも、無断での持ち帰りは、窃盗罪にも該当します。事実関係が十分に確認でき、立証できるのであれば、職場で明示的に禁止していた以上、就業規則に定められた事由に基づいて懲戒処分をすることができるでしょう。

ただし、そのアルバイトとの関係がどのようなものであったかにもよりますが、会社が事前の注意をどの程度していたかも踏まえて対応しましょう。懲戒処分の前例がなかった場合は、懲戒処分が重すぎないように注意し、場合によっては、注意・指導等にとどめるとか、軽めの処分にすることも考えられます。

懲戒処分が争われた裁判例

食中毒が起きると会社の信用を害する恐れがあるといっても、それが顕在化していない段階では、何らかの不便、不経済を生じたわけでもなく、その被害があるにしても、その程度は明らかでありません。環境面の問題から食品の廃棄は望ましくはなく、そのアルバイトも食品を無駄にしたくないという思いがあったのかもしれません。そこで、持ち帰りの回数、期間、食品の内容(食中毒リスクの高い食品か)等も踏まえて、その情状を適切に評価する必要があります。重すぎる懲戒処分をすると、社会通念上相当なものと認められず、懲戒権の濫用として、懲戒処分が無効とされるリスクもあります。

例えば、スーパーマーケットで勤務していた従業員が、精肉商品を会計せずに持ち帰ったことを理由にした懲戒解雇が無効であるとされた裁判例(横浜地判令和11010日、ロピア事件)や、市の職員がリサイクル衣料を持ち帰っていたことを理由とした停職1月の懲戒処分を無効とした裁判例(大阪地判平成30514日、大阪市事件)等があります。

再発防止に向けた取り組み

再発防止のために、懲戒処分を社内で開示したいという場合でも、その記載方法には十分に配慮する必要があります。上記のロピア事件では、会社が元従業員の実名を挙げて「窃盗事案が起きました」「計画性が高く、情状酌量の余地も認められない」等という開示が名誉毀損の不法行為に該当する等として、元従業員への損害賠償が命じられました(上記ロピア事件。なお、控訴後和解)。したがって、社内開示は、匿名にする等の配慮をすべきでしょう。

まとめ

懲戒処分もできますが、注意等にとどめる方策もありえます。また、社内開示は匿名にする等の配慮を要します。再発防止のためには、口頭注意による注意喚起のほか、禁止事項を確認する誓約書をあらためて取ることなどが考えられます。

関連Q&A

職務発明の取扱いのポイントについて教えてください。
当社では自動車用のネジを製作しています。先日当社の従業員が、耐久性が飛躍的に上がったネジを発明しました。当社の業務の中で生まれたネジなので、このネジに関する権利は当社に帰属しますよね?また、従業員は業務として発明を行っているので当社に対して給与以外の金銭請求をすることはできませんよね?
DXが進んだ部署の余剰人員を異動させたいです。
業務DXを進めた結果、弊社のある部署の人手が余ってしまいました。余剰人員となった従業員を別部署に異動させたいのですが、トラブルにならないように慎重に進めたいと思っています。どのような点に気を付けて進めるべきでしょうか?
問題社員を放置すると、どのようなリスクがありますか?
当社には、自分勝手に仕事を行い同僚や上司に迷惑をかけている問題社員がいます。今のところ大きな問題にはなっていないため特段対策を取っていないのですが、このまま問題社員を放置した場合、会社にとってどのようなリスクがありますか?
人事評価制度を変更するにあたって注意点はありますか。
人手不足や従業員の働き方の多様化に対応するために、人事評価制度を見直そうと考えています。変更にあたり、従業員とトラブルにならないようにしたいのですが、どのような点に注意すべきでしょうか。
従業員が横領していることが発覚した際の内部監査方法を教えてください。
当社の経理担当職員が会社の口座から不正にお金を引き出していることが、他の従業員からの通告でわかりました。実態を正確に把握できていないので内部監査を実施したいのですが、どのように進めるのが良いでしょうか。