アルバイトが恒常的に廃棄食品を黙って持ち帰っていたことが発覚しました。
持ち帰りに対する懲戒処分
廃棄食品でも、無断での持ち帰りは、窃盗罪にも該当します。事実関係が十分に確認でき、立証できるのであれば、職場で明示的に禁止していた以上、就業規則に定められた事由に基づいて懲戒処分をすることができるでしょう。
ただし、そのアルバイトとの関係がどのようなものであったかにもよりますが、会社が事前の注意をどの程度していたかも踏まえて対応しましょう。懲戒処分の前例がなかった場合は、懲戒処分が重すぎないように注意し、場合によっては、注意・指導等にとどめるとか、軽めの処分にすることも考えられます。
懲戒処分が争われた裁判例
食中毒が起きると会社の信用を害する恐れがあるといっても、それが顕在化していない段階では、何らかの不便、不経済を生じたわけでもなく、その被害があるにしても、その程度は明らかでありません。環境面の問題から食品の廃棄は望ましくはなく、そのアルバイトも食品を無駄にしたくないという思いがあったのかもしれません。そこで、持ち帰りの回数、期間、食品の内容(食中毒リスクの高い食品か)等も踏まえて、その情状を適切に評価する必要があります。重すぎる懲戒処分をすると、社会通念上相当なものと認められず、懲戒権の濫用として、懲戒処分が無効とされるリスクもあります。
例えば、スーパーマーケットで勤務していた従業員が、精肉商品を会計せずに持ち帰ったことを理由にした懲戒解雇が無効であるとされた裁判例(横浜地判令和1年10月10日、ロピア事件)や、市の職員がリサイクル衣料を持ち帰っていたことを理由とした停職1月の懲戒処分を無効とした裁判例(大阪地判平成30年5月14日、大阪市事件)等があります。
再発防止に向けた取り組み
再発防止のために、懲戒処分を社内で開示したいという場合でも、その記載方法には十分に配慮する必要があります。上記のロピア事件では、会社が元従業員の実名を挙げて「窃盗事案が起きました」「計画性が高く、情状酌量の余地も認められない」等という開示が名誉毀損の不法行為に該当する等として、元従業員への損害賠償が命じられました(上記ロピア事件。なお、控訴後和解)。したがって、社内開示は、匿名にする等の配慮をすべきでしょう。
まとめ
懲戒処分もできますが、注意等にとどめる方策もありえます。また、社内開示は匿名にする等の配慮を要します。再発防止のためには、口頭注意による注意喚起のほか、禁止事項を確認する誓約書をあらためて取ることなどが考えられます。
※この記事は、2024年5月15日に作成されました。