パタハラの相談を受けました。対応方法を知りたいです。
男性の育児休業取得の現状
女性就業者の増加が進み、ワークライフバランスへの理解と取組みが進む一方、男性就業者の育児休業取得率が低迷しています。令和4年の厚労省の調査では、男性の育児休業取得率は17.13%で、女性の取得率80.2%を大きく下回ります。
男性の育児休業の取得が進まない原因は、収入減少への危機感のほか、人手不足、非効率な職場環境、「女性は家事を、男性は仕事を」という性別による役割分担意識、世代間の意識のギャップなどが考えられます。相談者のように、上司に理解がなく、育児休業を取得しづらい職場環境が存在する場合には、これを改善していく必要があります。
法律上のルールとリスク
育児介護休業法は、労働者が育児休業等の利用を申し出たこと、または利用したことを理由として、解雇、不利益な配置転換・査定など、労働者にとって不利益な取扱いをすることを禁止しています。
また、事業者には、制度利用に関する職場での言動により労働者の就業環境を害する、いわゆる「育児ハラスメント」が発生しないよう雇用管理上必要な措置を講じることが義務づけられています。
事業者がこれらに違反した場合、厚生労働大臣から助言、指導または勧告を受け、勧告に従わない事業者の名前が公表されることになっています。
このほか、事業者は、ハラスメント被害を受けた従業員から、損害賠償を請求される可能性があります。
パタハラの相談を受けたときの具体的な対応
事業者は、従業員からハラスメントの相談を受けたとき、次の措置を講じなければなりません。
① 関係者から聴き取りをして、事実関係を迅速かつ正確に把握する。
② 相談者が受けた被害を回復し、速やかに制度を利用できるようにする。
③ 社内規則に基づき、上司に対する注意指導、懲戒など然るべき措置を講ずる。
④ 再発防止に向けた適切な措置を講ずる。
質問の上司の発言は、「育児は女性がするもの」という偏った考えをもとに、昇進への影響を示唆し、相談者の育児休業の取得を阻害するものです。したがって、発言の経緯や趣旨によっては違法(パタニティハラスメント)になる可能性があります。
相談を受けた事業者は、まず相談者、上司双方から聴き取りをして発言の内容・趣旨、相談者が受けた不利益などの事実関係を正確に把握する必要があります。
次に、発言が事実であれば、速やかに相談者が育児休業を取得できるようにし、必要に応じて従業員と上司との関係改善に向けた援助や上司に謝罪させるなどの措置を講じます。
さらに、上司に対しては、社内規則に基づき、注意指導または懲戒処分など、適正な処分を講じます。
そして最後に、事業者は、改めてハラスメントに厳正に対処する旨の会社の方針を明確にし、社内報などを通じて周知したうえ、研修等の機会を通じた啓発を実施します。
ハラスメントが会社に及ぼす影響
上司や同僚が育児休業の取得に批判的になることは、育児休業の取得を阻害し、本人だけでなく周りの人間の就労意欲も低下させ、会社への信頼を損ねることになりかねません。
また、ハラスメントは、職場環境の悪化による生産性の低下、従業員の健康被害による業務停滞・ミスの多発など、企業にとって大きな損失につながる可能性もあります。最悪の場合、企業名が公表されて、優秀な人材が集まらなくなったり、被害を受けた従業員から訴えられたりすることもあります。
事業者としては、ハラスメントにはこれらのリスクがあることと、ハラスメントの防止が、従業員の雇用の継続、会社への信頼の醸成、生産性の向上など会社の利益につながることをよく理解したうえ、積極的にハラスメントの防止に取り組むことが必要です。
※この記事は、2023年12月4日に作成されました。