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特許権侵害で訴えられた場合、どのような経営リスクになるのでしょうか?

当社はソフトウェアを開発販売している企業です。新製品の開発を検討しているのですが、万が一製品が他社の特許権を侵害している場合、どの程度の損害賠償額となるのでしょうか。
また、賠償金以外で、経営上のリスクはどのようなものがあるのでしょうか。
他人の特許権を侵害すると、侵害品の販売利益またはライセンス料相当額を基礎に算定される額の損害賠償が求められます。また、製品販売を継続できなくなるほか、訴訟に要する労力や費用の負担も生じます。さらに、敗訴まで至らなくとも、訴訟提起の段階で顧客に供給上の不安が生じ、取引が忌避される等種々のリスクがあります。
回答者
飯島 歩 弁護士
弁護士法人イノベンティア

特許権侵害に伴う経営上のリスク

特許権侵害をめぐっては、ご質問の損害賠償に関するものを含め、以下の点が経営に対するリスクになります。

① 損害賠償リスク
② 差止リスク
③ 信用・風評リスク
④ 訴訟リスク
⑤ 海外での紛争リスク
⑥ 役員の個人責任等その他のリスク

損害賠償額リスク

特許権を侵害していると認められた場合の損害賠償額は、特許権者との競合関係の有無等により、侵害品販売による利益(限界利益)や、売上に対するライセンス料を基礎に算定されることになります。ここにいう限界利益は、売上から変動費を控除した額で、人件費等の固定費は原則として控除されず、また、開発費も必ずしも全部が考慮されるわけではありません。ソフトウェア製品の場合、機械や家電、医薬品、化学品等の工業製品と比較して変動費が小さく、開発費や固定費の比率が大きいことが多いため、認められる損害額が売上に対して多額になる可能性があります。ライセンス料についても、ソフトウェア製品は、工業製品と比較して高めの料率が認定される傾向にあります。

差止リスク

特許権侵害が認められると、侵害品の製造・販売が差し止められ、継続できなくなります。ソフトウェア製品は、工業製品と比較して、改修等による侵害回避の対応をしやすい面がありますが、製品の中核的な部分に特許権侵害があるような場合には、回避ができず、事業継続が困難になることもあり得ます。

信用・風評リスク

特許権侵害は刑事罰もあり得る違法行為ですので、これをしたことにより、企業の信用や風評が毀損されることがあります。また、差止が命じられると、対象製品についての事業が継続できなくなるのみならず、顧客や流通経路における信用も失い、より広い範囲の取引の継続に影響することがあり得ます。特に、対象製品がB2Bの継続的取引の目的となっている場合には、供給不安から、特定の顧客との取引が全部失われるという事態もあり得るため、注意を要します。

訴訟リスク

特許権侵害訴訟の対応には大きな費用を要することが多く、また、社内の人的リソースも割かれることになるため、最終的に勝訴することができても、訴訟提起を受けること自体が経営上のリスクになり得ます。特許権者が訴訟提起の時点でプレスリリースをすることもあるため、上に述べた供給不安に基づく取引継続に関するリスクは、訴訟提起の段階で顕在化することもあります。

海外での紛争リスク

ソフトウェア製品は海外展開しやすい面もありますが、海外展開には海外での訴訟リスクも伴います。特許制度は各国で異なるため、それぞれの対応を考える必要があるほか、海外には、外国企業が不利になるといわれる地域や、訴訟費用が非常に高額になる地域もあり、昨今の為替の状況や物価の差も考えると、国内だけで事業展開する場合よりも、一層侵害ないし訴訟をめぐるリスクを考えておくことが重要になります。

その他のリスク

昨今、特許権侵害について役員個人が責任追及を受ける事例も散見されますが、これも、経営上のリスクとなり得ます。故意に特許権侵害をした場合には刑事罰もあり得ますので、留意が必要です。

この記事は、2024年5月16日に作成されました。

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