インターネット上の伏字を用いた投稿でも、名誉毀損に当たりますか?
名誉毀損における同定可能性とは?
インターネット上の投稿が名誉毀損に当たるためには、その投稿が、特定の者の社会的評価を低下させるものであることが必要になります。
そのため、名誉毀損に当たるには、前提として、その投稿が特定の者を指していることが必要であり、これを「同定可能性」の要件といいます。
対象の投稿内容が悪質であったとしても、その投稿が誰を指しているのか不明である場合には、「同定可能性」を満たしておらず、名誉毀損は成立しないことになります。
投稿の中で、具体的な個人名や企業名が名指しされている場合には、同定可能性が問題になることはあまりありませんが、インターネット上の投稿では、伏字や当て字等を用いて誹謗中傷が行われることも多く、その場合、誰に対するものなのかという点が明確ではないことも多く、その場合、「同定可能性」が問題になります。
同定可能性の判断基準について
「同定可能性」の判断基準について、明確に示した判例はありませんが、一般の第三者が対象の投稿を見た時に、特定の者に対する投稿であると読めるのかどうか(「一般読者基準」)によって判断されるというのが、基本的な考え方となります。
例えば、インターネットの投稿で、「大阪市〇〇区〇〇町にある9文字の歯科医院は、医療ミスばかりのヤブ医者である」という投稿が行われた場合を考えます。この投稿中の「大阪市〇〇区〇〇町にある9文字の歯科医院」に当たる歯科医院が実際に一つしかないのであれば、この投稿を閲覧した一般の読者は、インターネット検索等により、この投稿がその店舗を指しているのだと特定することができるので、「同定可能性」が認められるということになります。
また、「同定可能性」の判断においては、対象となっている投稿自体の内容だけではなく、同一ページ・同一スレッド内の他の投稿内容等も加味し、全体的に観察して判断するというのが、実務上の一般的な考え方です。
実際の対応時のポイント
名誉毀損として法的措置(削除請求、発信者情報開示請求等)を行うことを考えた時、対象の投稿に具体的な企業名等が記載されていない場合は、「同定可能性」の有無が争われやすいポイントになります。そのため、対象の投稿について「同定可能性」があるといえるか、どのように「同定可能性」があると主張・立証していくかは、重要な検討事項になります。
また、問題となっている投稿が多数ある場合には、法的措置をスムーズに進めるために、「同定可能性」に問題がなく名誉毀損と判断される可能性が高い投稿に絞った上で法的措置を行うことも、戦略として検討すべきです。
まとめ
インターネット上の投稿について名誉毀損に当たるためには、投稿内容が誰を指しているのかが明確である必要があります(「同定可能性」)。
「同定可能性」は、一般の読者からみて、投稿内容が誰を指しているのか分かるかどうかという基準によって判断されます。
問題になっている投稿について法的措置を検討する場合、「同定可能性」に問題がないかどうかは、事前に検討しておくべきポイントになります。
※この記事は、2024年9月6日に作成されました。