パワハラをしたとされる当事者が否認している場合の対応を教えてください。
他方、行為者からの事情聴取も言動の有無を判断するために重要です。
行為者の言動に信用性があるかは、動画やメール、SNSなどの直接証拠や診断書などの間接証拠との整合性などがひとつのメルクマールとなります。
相談されたパワハラ言動を特定する
まず相談者からの相談内容を明確にする必要があります。相談者から事情を聴き取り、パワーハラスメント(以下「パワハラ」)に該当する言動を特定します。
その際、「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(以下「指針」)2(7)に挙げられている6類型(身体的な攻撃、精神的な攻撃、人間関係からの切り離し、過大な要求、過小な要求、個の侵害)を念頭に置いて、言動の特定をします(もっとも、指針2(7)で6類型は「限定列挙ではない」としていることに注意してください)。
そして、5W1H(いつ、どこで、誰が、何をしたか(言ったか)、どのような態様であったか)を意識して聴き取りし、言動の特定をする必要があります。
当該言動を特定する際に相談者から、これらの言動を裏付ける資料の有無を確認することも重要です。
行為者の言い分を聴取する
パワハラに該当する言動をしたとされる行為者に対しても、当該言動について事情聴取をし、反論・反証をする機会を与える必要があります。一方当事者の言い分のみを信用してパワハラ該当言動の存否を決定することは、公正さを欠くのみならず、正確な事実認定ができなくなる可能性があるからです。この際、行為者にその主張を裏付ける客観証拠を提供させる必要もあります。
なお行為者の事情聴取は、行為者を指弾する手続ではなく事実関係を正確に確認するための手続であることから、あくまで中立公正の立場で行わなければならず、行為者を責めることは厳に控えなければなりません。
双方の言い分を検討する
指針は「事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認すること」を求めていますが、実際には相談者・行為者の言い分が正反対となるケースも少なくありません。
この場合、双方の供述の信用性を判断するためには、客観的な証拠との整合性がひとつのメルクマールになります。動画や音声記録、メールやSNSなどの直接証拠や、被害後のメール等や診断書などの間接証拠と供述内容の照らし合わせが必要になります。
また、「相談者と行為者との間で事実関係に関する主張に不一致があり、事実の確認が十分にできないと認められる場合には、第三者からも事実関係を聴取する等の措置を講ずる」ことも考えられます(指針4(3)イ②)。
そして、それでも真偽不明の場合には、パワハラ言動の存在を認定することはできません。
なお、調査結果は調査報告書を作成してまとめることが一般的です。
- 山浦美紀・大浦綾子『実務家・企業担当者のためのハラスメント対応マニュアル』(新日本法規・2020年)*企業のハラスメント対応の決定版。書式も充実。
- 水谷英夫『職場のいじめ・パワハラと法対策(第5版)』(民事法研究会・2020年)*ハラスメント概念の草創期からの第一人者による包括的な実務書。
- 横山佳枝『発覚から調査・解決まで 職場のハラスメント対応マニュアル』(労務行政・2023年)*東京都労働局紛争調整委員による最新のハラスメント対応実務書。
- 水町勇一郎『詳解労働法(第3版)』(東京大学出版会・2023年)*ハラスメントに限らず立法・行政の最新の動向から裁判例の傾向に至る膨大な情報を、理論的に整理し尽くした体系書。
- 小鍛冶広道・西頭英明・湊祐樹・小山博章「こんなときどうする?ハラスメント調査・対応の実務Q&A50」『ビジネス法務』22巻5号(2022年5月号)34頁以下*現場での悩みどころに端的に回答していて役に立つ。
※この記事は、2024年1月18日に作成されました。