生産に必要な原材料を競合に買い占められ、生産活動ができなくなりました。
目次
独占禁止法のどの条文に違反するか
本件は、「競争者排除のおそれ」の問題や、独占禁止法の目的である公正競争の促進に反する「不公正な競争方法」であるという観点から検討すべき事案です。流通量が少ない原材料を大手企業が買い占めてしまうのですから、貴社など各社が排除されるおそれは深刻でしょう。また、この買い占めは不当な生産妨害目的に基づくもののようですので、競争方法が不公正であるということもできそうです。
独占禁止法には、このような行為を禁止する「競争者に対する取引妨害」(法2条9項6号ヘ、一般指定〔公取委告示〕14項)や「不当高価購入」(法2条9項6号ロ、一般指定7項)という条文があります。本件がこれらの規定に違反するものであることを主張することが必要です。
独占禁止法を活用した問題解決
買占めをやめるよう貴社が競合企業に直接に申し入れても改善を期待できないようであれば、裁判所や公取委を利用して問題解決を図る必要があります。すでに製造活動ができなくなっていますので、迅速な解決を目指すことが重要でしょう。
裁判所における問題解決(差止仮処分の申立て・損害賠償請求訴訟の提起)
貴社の製造活動が停止に追い込まれてしまいましたので、まずは製造再開を図りたいところです。このための迅速な手続として、不公正取引方法差止仮処分の申立てがあります(法24条。差止訴訟をあわせて提起する必要があります)。数か月程度で裁判所から仮の差止め決定を得られることを期待できます。
ただし、この申立てが成功するためには貴社に著しい損害(またはそのおそれ)が生じていることを裁判所に説明する必要があり、実務上は、売上のほとんどが失われるなどの事情が重要な考慮要素とされています。また、競合企業は不当行為ではないと反論するでしょうから、不当な妨害目的による買い占めであることを説得的に主張することもポイントになると思われます。
差止仮処分決定を得られなければ、製造停止は長期間続くことになりますので、失われた利益を損害賠償請求訴訟によって回復することが次の目標となります。
公取委における問題解決(申告)
貴社は、公取委に対して情報提供を行い、競合企業に対して行政処分(排除措置命令)などの措置をとるよう求めることができます(法45条〔申告〕)。
公取委へ申告したという事実や申告内容についての秘密は厳守されますので、申告は、競合企業からの報復をおそれることなく行うことができます。しかし、公取委は審査を開始する前に様々な検討や準備を行う必要があるでしょうから、迅速な審査開始を期待することは通常は現実的ではありませんし、行政処分などの措置までにはさらに長い期間を要します。
なお、公取委が行政処分(排除措置命令)を行いその内容が確定した場合には、その後の損害賠償請求訴訟(法25条)において、裁判所は、命令書に記された独占禁止法違反の事実を前提にして審理を行います。これは貴社に有利なことです。
まとめ ~戦略的対応の迅速な決断~
貴社は以上のとおり様々な手続を利用することができますが、製造活動を可能な限り迅速に再開することを目標とするのであれば、複数の手続に同時に着手するなど戦略的な対応を迅速に決断することが欠かせません。
なお、被害を被っているのは貴社だけではないかもしれません。実務上、他社と連携しながら問題解決を図ることもあり、多くの場合において有効な戦略であると感じますが、話合いの内容が独占禁止法に違反するカルテル(法3条後段〔不当な取引制限〕)につながってしまうことのないよう、法務部や弁護士と相談することが重要です。
※この記事は、2024年7月10日に作成されました。