定年制度を廃止したいのですが、何に気を付けるべきでしょうか?
はじめに~高齢者雇用をめぐる社会状況~
高年齢者雇用安定法9条は、高年齢者の65歳までの安定した雇用を確保するため、定年年齢を65歳未満としている事業主に、高年齢者雇用確保措置として、① 65歳まで定年年齢を引き上げ 、②希望者全員を65歳まで継続して雇用する制度(継続雇用制度)の導入 、③定年制の廃止のうち、いずれかの実施を義務づけています。このような法制度はもちろんのこと、現実に労働力不足が深刻化するなかで、様々な職場で定年制の廃止が検討されるような状況となっております。
定年制の廃止等に伴うリスク
定年制があることにより、労働者が一定の年齢に達したときに雇用関係を一律に終了させることができますので、使用者にとっては、加齢によって業務遂行能力が低下した従業員が出てきた場合にも円滑に退職させることができますし、人員配置の見通しも立てやすいというメリットがあります。
他方で、定年制を廃止した場合、加齢により業務遂行能力が低下した従業員が生じたときに、当該従業員が退職に合意しない場合には、使用者にとって大きな悩みの種となり得ます。特に、建設業や製造業といった体力が必要となる職場においては、労災事故防止の観点からも種々の配慮が必要となります。
このように、定年制度の廃止には種々の配慮が必要となりますので、ご注意ください。
高齢者雇用との向き合い方
前述のとおり、高年齢者雇用安定法9条により、65歳までの雇用確保が義務付けられていますが、従来の日本企業では定年年齢を60歳とする運用が多く、心情的に定年年齢の引き上げに抵抗感を感じる使用者もいるかもしれません。そのような使用者においては、希望者全員に対する65歳までの継続雇用制度の導入をご検討いただきたいと思います。この継続雇用制度は、一定の条件付きで経過措置期間が設けられておりましたが、令和7年3月31日を以て同経過措置も終了となり、65歳までの継続雇用制度が義務化されます(もちろん、定年制を廃止したり、定年年齢を65歳以上に引き上げたりした場合は別です)。
継続雇用制度を導入した場合の一例として、定年年齢を60歳としつつ、65歳まで1年間の有期雇用契約を更新する方法を採用した場合について検討してみましょう。この場合、有期雇用が5年間継続することとなりますので、労働者に無期転換権が発生する可能性がございます。すなわち、65歳を超えて無期雇用に転換する従業員が出現する可能性があるということです。この場合、前述した定年制度を廃止した場合の問題(高齢の社員が退職に同意しないというもの)と同様のリスクが生じてしまいます。そのため、継続雇用制度の導入についても、慎重な配慮が必要となります。
これに対し、定年を65歳や70歳まで引き上げる方法は雇用関係の終了時期が決まっていることから、使用者としても制度の運用がシンプルになりますし、種々の予測が立てやすいという点もメリットがあります。そして、従業員にとっても、安定した雇用関係の継続が延長するという点でメリットがあります。
まとめ
今回は、定年制度の廃止にともなうリスクについてご説明しました。もっとも、近年は定年制度を廃止する職場も散見されるようになっており、職種や従業員との信頼関係によっては定年制度を廃止するという選択も十分にあり得るところです。
※この記事は、2024年9月18日に作成されました。