離婚協議中の妻が息子を連れ去りました。取り戻すことはできますか?
監護者決定の考え方
主たる監護権者
子どもが生まれてからこれまでの間に、子どもの監護養育を主に担ってきたといえる親を「主たる監護者」と呼びます。以前は、子どもの年齢が幼い場合には主たる監護者が母親であることが多く、「母親優先の原則」や「母性優先の原則」という言葉が用いられていました。しかし、現在では育児に積極的に参加している父親も増えていること等から、主たる監護者という考え方が重視されています。
監護環境の適否
子どもが監護される環境が、どちらの親に監護される方がベターであるかということも判断基準となります。例えば、住居の間取りや、子どもの通う保育園・幼稚園や学校との距離、公園や病院等の周辺環境などです。
今回の相談事案のように、子どもが連れ去られる場合、通常はそれまで生活していた生活環境の変化がありますので、その変化が大きく子どもへの悪影響が懸念される場合には、相談者に有利な事情となります。
監護能力・適格性
親の監護能力や適格性も、監護者を決めるための考慮要素となります。親の心身の健康やこれまでの育児における問題の有無、子どもについての理解などです。また、不貞行為や暴力などは、そのような行為があったこと自体というよりは、そのような行為が子どもに与えた影響という観点から検討されることになります。
監護開始の違法性
本件相談のようなケースでは、監護開始の違法性が問題とされることもあります。ただし、現在の裁判実務では、同居状態から別居する際の子どもの連れ出しが直ちに違法とされるケースは少なく、子どもを連れ出した経緯、連れ出しの態様、子どもの年齢、意思などを総合考慮して、違法かどうかが判断されることになります。
子どもの意思
子どもの年齢が10歳前後以上の場合には、どちらに監護されたいかという子どもの意思も尊重されます。特に年齢が高くなるほど子どもの意思は尊重されることになります。
面会交流の許容性
監護する親が、非監護者となる親に対してどれだけ面会交流を許容するかということも、監護権者を決定する判断材料となります。フレンドリーペアレントルールとも呼ばれますが、日本ではまだそこまで重視されていないと考えられます。
採るべき対応
上記のような考え方を前提に、相談者がまず採るべき対応は、①監護者指定・子の引き渡しの審判の申し立て、②審判前の保全処分、③監護者指定・子の引き渡しの調停の申し立てなどが考えられます。
③の調停は、話し合いによる解決が見込める場合に行うものですので、一般的には、①と②を併せて行うことが多いでしょう。今回のご相談も、配偶者としては「手放す意思はない」ことを明確にしているので、調停で解決する可能性は低そうです。
②の保全処分が認められるためには、「保全の必要性」という要件をクリアする必要があります。この要件は簡単に認められるものではなく、保全の必要性が認められる場合としては、例えば、子どもが虐待を受けているとか食事をとれていない等の事情が考えられます。このようなことを疎明できるケースは多くありませんが、それでも保全処分の申し立てを審判申立てと併せて行うことで、初回期日が比較的早く指定されるなど、通常より迅速に手続が進むこともあります。
いずれにしても、上述したような監護者指定の判断において重要となる事実や証拠の整理をきちんと行い、具体的に、相談者の方が監護者に適していることを主張していく必要があります。そのため、現実的には、早急に弁護士に相談、依頼をするというのが一番の対応策となります。
まとめ
別居の際の子どもの連れ出しは、連れ出された方からすると大変なショックを受ける場合が多く、そのショックから子どもと引き離された親が、子どもを力づくで取り戻してくる等の衝動的な行動に出てしまうこともあります。しかし、そのような行動は、かえって違法行為と認定されてしまうリスクもあるので絶対に控えるべきです。
他方で、子どもを連れ出されてしまった場合、その監護状態が長くなれば長くなるほど、その監護状態の継続が重視され、相談者が監護者として指定される可能性も低くなっていきます。そのため、子どもを連れ出されてしまったが自分が監護者となりたいという場合には、できる限り速やかに弁護士に相談し、監護者指定・子の引き渡しの審判の申し立ておよび審判前の保全処分の依頼をすることを検討してください。
※この記事は、2024年1月11日に作成されました。