当社のリモートワーク従業員の管理方法は、ハラスメントにあたりますか?
業務の必要性とプライバシー保護とのバランス
会社での業務と異なり、従業員の自宅等におけるリモートワークの場合には、業務管理や健康管理などを直接的に行うことができません。そのため、指揮管理権を行使しこのような管理をするための、何らかの監視手段を採る必要があります。他方、特に自宅の場合には、業務を行うとはいえプライベートな空間であり、プライバシー保護の要請があります。
したがって、業務管理等の必要性にのみ偏すること無く、双方のバランスを踏まえて、どのような措置を採るべきか検討する必要があります。
参考となる裁判例、ガイドライン等
裁判例
会社の業務管理等と従業員のプライバシー権との関係が問題となった事案としては、F社Z事業部事件(東京地判平成13年12月3日労判826号76頁)が挙げられます。同事件は、会社の社内ネットワークシステムを使用した私的メールのやり取りを事業部長に監視されたもので、リモートワークの場合とは事案を異にしますが、監視とプライバシー権との関係について判示された以下の規範部分が参考になります。
また、社用メールアカウントから上司にメールの自動転送される措置が問題となった事案(日立コンサルティング事件)では、業務上のものであることやモニタリングに関する社内ガイドラインの定めがあることなどを理由に、このような監視が不当とは言えないと評価されました(東京地判平成28年10月7日、東京高判平成29年6月1日労判1155号54頁)。他方、GPSによる位置モニタリングが問題になった事案において、労務提供義務の無い時間帯に実施することは原則として許されないとの判断も示されています(東起業事件、東京地判平成24年5月31日労判1056号19頁)。
ガイドライン
さらに、個人情報保護委員会の定める「『個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン』に関するQ&A」(令和5年12月25日更新版)33頁では、個人データを取り扱う従業員を対象とするオンライン等による監視について、次のとおり整理しており、これもハラスメントの有無を判断する上で参考になります。
(従業者の監督)
A5-7 個人データの取扱いに関する従業者の監督、その他安全管理措置の一環として従業者を対象とするビデオ及びオンラインによるモニタリングを実施する場合は、次のような点に留意することが考えられます。なお、モニタリングに関して、個人情報の取扱いに係る重要事項等を定めるときは、あらかじめ労働組合等に通知し必要に応じて協議を行うことが望ましく、また、その重要事項等を定めたときは、従業者に周知することが望ましいと考えられます。
- モニタリングの目的をあらかじめ特定した上で、社内規程等に定め、従業者に明示すること
- モニタリングの実施に関する責任者及びその権限を定めること
- あらかじめモニタリングの実施に関するルールを策定し、その内容を運用者に徹底すること
- モニタリングがあらかじめ定めたルールに従って適正に行われているか、確認を行うこと
本件の場合
本件は①②のいずれとも勤務時間内ですので、従業員の業務管理等のための監視の一定の必要性は認められます。しかし、会社であったとしても上司が常に監視をし続けるものではなく、必要な都度行うのが原則的であるのに加えて、常時監視によるプライバシー侵害の程度は大きいものとなります。他方、2時間に一回程度の業務報告をする程度であれば、必要な監視をしつつ、プライバシー侵害の程度も低く、相対的にバランスが取れているものと考えられましょう。
よって、①(勤務時間中は常時オンラインで顔を映すこと)については業務管理等における必要性と衡量したとしても、常時監視はプライバシー侵害の程度が高く、ハラスメントにあたる可能性が生じます。他方②(2時間に1回業務報告を行うこと)については、社会的に相当な程度の措置であると認められる可能性が高いと言えましょう。
ただ、上記ガイドラインにも記載されているとおり、このようなモニタリングを行う前提として、適正な社内ガイドラインや規程の整備、周知、従業員への説明などの措置を会社として行っておくことが必要になりましょう。
※この記事は、2024年2月2日に作成されました。