TOPQ&A記事隣地に建物が建築され自宅が日影になりそうです。対応方法を教えてください。
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隣地に建物が建築され自宅が日影になりそうです。対応方法を教えてください。

ある日突然、建築業者が自宅を訪ねてきて「自宅の南側の土地に低層マンションか3階建ての住宅が新築されることになった」という挨拶をされました。担当者は「ある程度の日影は出来ますが、法律に適合していますので建てることには問題はありません。」と言っており、あたかも「法律にあった建物だから何も文句は言えないよ。」と言わんばかりです。
よく聞くと、当時の頃には、日中自宅の1階も2階もほとんど太陽の光が当たらなくなってしまうようです。差し止めか、せめて損害賠償請求したいのですが、可能でしょうか。
可能性はあります。
そもそも法律というのは建築基準法だけではなく、民法その他の様々な被害防止のシステムを考えた法律があります。また裁判例によっても、人格権の一種として「日照権」という権利が認められています。したがって、建築基準法を形式的にクリアしたからといって、民法上もすべてOKというわけではなく、個別の事情によっては日照阻害が違法とされる場合があるのです。
回答者
松本 篤周 弁護士
弁護士法人名古屋法律事務所

施主側の業者が言っている「法律」とは、あくまでも建築基準法のことだけ

建築基準法は、建物による日影を一定程度制限しています。しかし、それは個別の事情は抜きにして、一般的に最低限の規制をしているに過ぎません。

高さが10m以下の場合

建築基準法は、住居地域や準住居・近隣商業地域(ただし、容積率400パーセントの地域を除く)など、一定の住環境を保護することが必要とされている地域で、10mを超える建物を建築するにあたって、一定の規制をしています。これを逆手にとって、例えば3階建ての建物を9m60㎝にして、「建築基準法の日影規制の対象外なので、いくら影を作っても建築基準法には違反しない。」と言っているに過ぎない場合がありますが、これは裁判で勝てる可能性のある典型的なケースです。

この場合、「建築基準法を守っている。」と言っても、本来の正しい表現としては「規制逃れ手法によって建築基準法が適用されないようにしている」という意味に過ぎません。

高さが10mを超える場合

上記の地域で、10mを超える高さの建物を建てようとする場合に「建築基準法を守っている」という場合があります。

これは、建築基準法の日影規制を実質的に守って、建築基準法の定める最低限の日照時間を確保している、という意味です。その意味では「法律を守っている。」というのは一応正しい表現と言うことになるでしょう。しかし、日影規制の時間を守る設計にしなければ建築確認自体が下りないので、これは当然のことを言っているに過ぎないのです。

民事裁判における不法行為の違法性判断のための「受忍限度論」の理論

それでは、上記の10mギリギリの「脱法的」な事例で、裁判(通常は建築禁止仮処分申立)では、裁判所はどのような判断をするのでしょうか。

建築基準法および建築物日影規制条例(各自治体ごとに定められているので、自宅がある自治体の条例を確認して下さい)によれば、多くの場合都市計画法上の第1・2種中高層住居地域・準住居地域における日影規制は、以下のようなものになっています。

高さ10m以上の建物では、冬至の日における日影について、平均地盤面からの高さにおいて、敷地境界線からの水平距離が5m以内に収める日影時間は、3時間以内とする。

 

また、近隣商業地域(ただし、容積率400パーセントの地域を除く)・準工業地域においても、規制があります。

ところが、10mの高さから数㎝から数十㎝低くすることで、形式的に建築基準法の日影規制を免れることにより、冬至における日影が、ほぼ一日中債権者の建物を覆う結果となってしまう例がしばしばあります。

このような建物は、形式的には建築基準法上の日影規制には違反していないとしても、私法上は、北側住居に与える日照阻害は受忍限度を超え、違法とされる場合があります。なぜなら、建築基準法上の日影規制は行政法規としての形式的・一般的な規制であり、その趣旨は、高さ10m以上の建物について規制することで最低限の日照被害の保護を図ることだからです。言い換えると、10m未満の高さの建物であれば、どんな日照被害を引き起こしても許されるという趣旨ではないのです。

裁判例の多くは、日照被害の違法性判断については、建築基準法の日影規制の時間を、受忍限度を超えるかどうかの基準(物差し)にしています。

実際に私が勝ち取った名古屋地裁平成5年3月11日決定、同平成7年11月8日決定も同旨の理由を述べて一部建築禁止の決定を出しています。

日影規制が及ばない地域ではどうするか

建築基準法の日影規制がある地域で、基準を実質的に守っている建築

建築基準法の基準を実質的に守っている建築については、原則として、受忍限度内の被害であり、甘受せざるを得ないという結論が予想されます。なぜなら、裁判所は建築基準法の日影規制の数値を、受忍限度として考えているからです。そのため、残念ながら裁判を提起しても、基本的に勝訴の可能性は低いと言わざるを得ないと考えます。ただし、以下のような事案の特殊性が認められる場合には、建築基準法の日影規制の範囲内での日照を確保しているからと言って、無条件に建築できることにはならない可能性もあります。

  • 被害者側が保育園や幼稚園であり、運動場で園児が太陽の光を受けることができなくなる場合
  • 伝統的な景観地区であり、高層建物を建築することが、景観を中心とした居住環境を享受する権利を阻害することになる場合

 

そもそも建築基準法の規制が及ばない地域

建築基準法の規制が及ばない地域(例えば、商業地域や近隣商業地域で容積率400パーセント以上の地域)については、受忍限度をどのように考えるかは極めて難しい問題です。

これについても以下のような場合には、一定の日照の確保を権利として主張して、認められることも全くないとはいえないと考えます。

  • 建築予定地の都市計画区域の線引きが、住居地域などのすぐ近くにある(場合によっては当該敷地の中に区域指定の線が通っているケースもある)場合
  • 形式的には無規制地域でも、実際の周辺の住宅の状況が、低層階の住宅やマンションが多く、学校や病院、公園など、居住環境を重視すべき環境にあるような場合

 

実際、少し古い裁判例ではありますが、商業地域において日照権を理由に建築を差し止めたケースもあります。

建築禁止仮処分命令申立事件(大分地決平成9年12月8日判タ984号274頁)

「商業地域に指定されているが、低層住宅等が多数密集している地域において14階建てマンションが計画どおり建てられると、隣接建物は終日日照を奪われ、しかも日照被害の回避、代替措置等について十分な配慮が示されなかったことなどを考慮すると、右日照被害は受忍限度を超えているといわざるをえないとして、マンション全体について 建築差止めが認められた事例。」

 

建築禁止仮処分はスピードが大事

建築禁止仮処分は、スピードが勝負です。建物の建築が進んでしまうと、裁判所もストップをかけることに消極的になります。そのため、南側の土地の古い建物が取り壊されたとか、空き地だったが何やら建物を建てるような準備をしている業者が挨拶に来た、という場合は、とにかく一刻も早く弁護士に相談することがとても大切です。

この記事は、2024年1月31日に作成されました。

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