就業中に自然災害が発生した場合の従業員対応で気を付けるべきことは何ですか?
目次
初めに 数十年に一度の自然災害が毎年発生しているという現実
企業経営を行うにあたって、重大な自然災害発生というリスクに備えた対策をしておくことは、避けて通れない時代となってきました。自然災害リスクに備えて考えておくべきこととしては、従業員対策、顧客対策、事業継続対策があります。今回は、就業時間中に自然災害が発生した場合に備えた、事前の従業員・顧客対策について、「安全配慮義務」という観点から考えてみます。
安全配慮義務とは
従業員との関係での安全配慮義務
使用者である企業と従業員との間の労働契約について定めている労働契約法第5条は「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」として、企業に安全配慮義務を課しています。この安全配慮義務に違反した場合、損害賠償責任が問われる可能性があります。安全配慮義務違反の有無は、「結果の予見可能性」と「結果回避の可能性」という2つの基準で判断されます。
結果の予見可能性 | 企業が当該事故を発生前に予見できたかどうか |
結果回避の可能性 | 企業が当該事故を回避することができたかどうか |
顧客との関係での安全配慮義務
顧客との関係では、従業員と異なり労働契約は締結されておりません。しかし、例えばスーパーなど、不特定多数の顧客に入店のうえ買い物をしてもらっているような業態では、スーパー側に、店舗内で買い物をしている顧客の生命・身体などの安全に配慮するという、信義則上の安全配慮義務があるとされています。この顧客に対する安全配慮義務違反があるかどうかにつきましても、先に述べました「結果の予見可能性」と「結果回避の可能性」という2つの基準で判断されます。
災害発生時の対策マニュアルの作成と周知
(1)日本では、重大な自然災害が毎年のように、しかも全国で発生しています。そのため企業としては、就業時間中に自然災害によって重大な被害が生じるということを意識して(結果の予見可能性があったと判断されやすい)、災害発生時の対応マニュアルを作成し、企業内に周知・徹底させることが大切になります。
なお裁判例には、災害発生時のマニュアルを作成していたにもかかわらず、従業員に周知していなかったことから、実際に自然災害が発生し従業員の方が損害を受けたことに対して、企業側に安全配慮義務違反が認められたケースがあります。そのため、マニュアルの作成のみならず、その周知・徹底まで怠らないことが肝要です 。
(2)マニュアルは一度作成したら終わりではなく、常に最新の情報を取り入れて見直しておくことが必要です(例えば行政が発表するハザードマップも更新されています)。常にブラッシュアップして、企業内に周知・徹底しておくようにしましょう。
最後に 天災は忘れた頃にやってくる
私たちは、東日本大震災などの自然災害で多くの貴重な人命を失うという経験をしています。今を生きる私たちは、過去の不幸な結果から学び、同じことを繰り返さいように準備すること、そして、後世に伝えていくことが使命だろうと思います。これまで経験した自然災害に関する裁判例などを踏まえて、常に自分自身のことと考えて、いざというときのために備えておくことが大切です。
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参照/参考文献
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- ・判例時報2204号57ページ(仙台地裁平成25年9月17日)、判例時報2217号74ページ(仙台地裁平成26年2月25日)
- ・「災害行政法」(㈱信山社 著者:村中洋介) 57ページ以下
- ・「債権各論Ⅱ」 事務管理・不当利得・不法行為(㈱日本評論社 著者:平野裕之)
- ・「詳解 労働法」 第2版 (一般財団法人東京大学出版会 著者:水町勇一郎)
※この記事は、2023年10月18日に作成されました。