相続人が多数いる場合、何に気を付ければ円滑に遺産分割を進められますか?
相続人が多人数となる相続が発生する背景事情
当初の相続人が5名の遺産相続の場合、遺産分割未了のまま相続人に相続が発生(これを数次相続といいます。)し、各相続人に3名ずつ相続人がいれば、現在、遺産分割協議を行うべき当事者は15名、ということになります。さらに数次相続が発生した場合、相続人が数十名、という事態は容易に起こり得ます。これが、所有者不明土地が発生する仕組みです。かつては遺産分割や相続登記に期間制限がなかったため、必要な不動産以外は遺産分割や相続登記が行われず、その結果、このような相続人が多人数となるケースが多く発生していました。
遺産分割協議の成立には相続人全員の合意が必要
遺産分割協議は、相続人全員が合意して初めて有効に成立します。例えば、15名中1名でも反対すれば、他の14名が合意していても、全体として遺産分割協議は成立しません。その場合、いったん合意の意思を示した相続人も含めて、相続人全員を調停の当事者とする必要があります。そして時間の経過により、当初は協力する意向を示していた相続人が翻意してしまう可能性や、数次相続の発生により、現在の相続人が当初の相続人とは異なる意思を示す可能性も考えられます。
相続人多人数相続における初動時のポイント
相続人が多人数となる相続では、まず、分割協議をすべき相手の数をいかに減らせるか、という点が初動の際のポイントとなります。
一般論として、相続人の数が多ければ多いほど、自身の法定相続分も薄れていくことになり、相続について関心を持たなくなる傾向にあります。そこで、まずは他の相続人に書面で連絡し、協議・調停・審判の当事者となることでも構わないか、もしくは当事者から離脱することを望むかを確認し、後者のご意向を示される方には、相続分の譲渡を打診する、という対応が考えられます。
もちろん、無償では譲渡いただけない、という可能性もあります。その場合は、有償での相続分譲渡をご検討いただきますが、その対価の額について、例えば、法定相続分に応じた代償金相当額など、二当事者間で協議し、合意を目指していくことになります。
そのうえで、無償または有償で相続分譲渡をしていただけなかった相続人を相手方として、遺産分割協議・調停・審判を行っていきます。例えば、自分を除く14名の相続人のうち、12名には相続分譲渡をいただけた場合であれば、残り2名の相続人を相手方として、協議・審判・調停を進めていくことになります。
遺産分割案について、相続人15名全員の合意でまとめ上げるのと、3名で合意することの難易度を比較した場合、数が少ない後者の方がまとめやすい場合が多い、ということはご理解いただけるのではないかと思います。
まとめ
いかがでしたか。相続人が多人数となる相続において遺産分割協議を円滑に進めるためには、いかに協議対象の当事者の数を減らせるか、という点がポイントとなります。相続開始後の初動としては、書面等で他の相続人の意向を確認し、協議から離脱したい、という意向を示した方には、相続分の譲渡を促す、という対応を検討してみてはいかがでしょうか。
もっとも、相続分の譲渡を打診することで、感情を逆なですることが明らかな事案では、相続分譲渡の打診は慎重に検討された方がよいと思います。
また、相続分譲渡が特別受益にあたるとの判断を示した判例(最判平成30年10月19日)もあります。譲渡者を被相続人とした二次相続が想定される場合には、二次相続において特別受益と扱われる可能性があり、そのようなケースでは、相続分譲渡ではなく遺産分割協議を選択された方がよいでしょう。
このように、相続人が多人数となる相続において、円滑な遺産分割協議をどのように実現していくべきかについては、事案ごとにその選択肢が異なりますので、弁護士等の専門家にご相談されることをお勧めいたします。
※この記事は、2023年12月4日に作成されました。