どうすれば退職時のストックオプションの持ち出しを禁止できますか?
しかし、この度役員が一人退職するとのことで、ストックオプションの持ち出しを禁止したいです。ストックオプションの持ち出しを禁止するにはどうすればよいですか?
これらを設定せずに既に発行している場合の採りうる方法としては、退職予定の役員にストックオプションを放棄してもらう方法と、株主総会決議によってストックオプションの内容に在職要件と取得条項を追加する方法がありますが、いずれの場合も、対象となる役職員の同意が必要となります。
退職後のストックオプションの取扱い
ストックオプションとは、一般に、役職員の会社への貢献度を高めるために、会社がインセンティブ報酬として役職員に付与する新株予約権のことを言います。
退職後にストックオプションを行使・保有できるようにするか否かは、会社がストックオプション毎に設定することができます。短期間の在職であっても会社への貢献に見合う報酬としたいなどの理由から、退職後の行使・保有を認めているケースもある一方、退職後は通常会社に貢献することは期待できなくなることなどから、在職要件と取得条項を設定し、退職後は行使・保有できないとしているケースもよく見られるところです。
ストックオプションの在職要件・取得条項の定め方
ストックオプションを発行する場合は、発行しようとするストックオプションの内容、数など会社法所定の事項を株主総会で決定する必要があります(会社法238条1項・2項)。
退職後にストックオプションを行使できないようにするためには、ストックオプションの発行の際に、ストックオプションの内容として、例えば「新株予約権者は、新株予約権を行使する時まで継続して当社の取締役又は従業員であることを要する。」といった在職要件(会社法911条3項12号ニ参照)を定める必要があります。このとき、在職中の会社への貢献度が高かった役職員がやむを得ない事情で退職するなどの場合に、会社の判断で例外的に退職後の行使を認めることができるよう、「ただし、定年退職その他正当な理由があると取締役会で決定した場合は、この限りでない。」などと定めておくこともあります。
また、在職要件を定めたのみでは、退職後にストックオプションの行使ができなくなるだけで、ストックオプション自体は退職した役職員が保有したままとなっています。そこで、退職する役職員の保有するストックオプションを会社が取得できるよう、ストックオプション発行時に、在職要件と併せて「新株予約権を行使する前に、行使条件を満たさずに新株予約権を行使できなくなった場合は、当社は、当該新株予約権を無償で取得することができる。」といった取得条項(会社法236条1項7号)も定めておくことが考えられます。
在職要件・取得条項のないストックオプションについて退職後に行使・保有できないようにする手続
発行されたストックオプションの内容は、会社と役職員との間の契約であると考えられるため、これを役職員に不利になるように会社が一方的に変更することはできません。
そのため、在職要件・取得条項を設定しないまま発行したストックオプションについて、退職後の行使をさせないようにするためには、当該役員からストックオプションを放棄する旨の同意を取得する必要があります(後に同意の有無を巡って争いとならないよう、文書によって同意を取得しておくのが適当です。)。なお、ストックオプションの放棄は当該役員にとっては不利益となる提案であるため、同意してもらうために退職金を上乗せするなど何らかの対案が事実上必要となることもあります。
ストックオプションの放棄とは別の方法として、発行済みのストックオプションの内容に在職要件・取得条項を追加する旨株主総会で決議することにより、現在退職予定の役員の保有分を含むストックオプション全体について、退職後は行使・保有できないようにすることができます。ただし、この場合でも、既存のストックオプションの内容を役職員に不利に変更することには変わりがないため、退職予定の役員を含むストックオプション保有者全員からの同意が必要となることに注意が必要です。
まとめ
退職後にストックオプションを行使・保有できないようにするためには、発行段階で在職要件・取得条項を定めておく必要があります。
いったんストックオプションを発行した後は、役職員個人にストックオプションを放棄してもらう方法であっても、株主総会決議により在職要件・取得条項を追加する方法であっても、会社が一方的に「持ち出し」を禁止ことはできず、ストックオプション保有者からの同意が必要となるため、ストックオプションの内容は、発行段階で慎重に検討しておくことが肝要です。
- 最判平成24年4月24日最高裁判所民事判例集66巻6号2908頁
※この記事は、2024年1月19日に作成されました。