新製品の商標につき商標登録ができない場合、どうすべきでしょうか?
商標を変更したほうが良いのでしょうか?また、変更にあたりどのように商標の変更案を考えるべきでしょうか?
また、不正競争防止法の観点から、他人の周知又は著名な商品等表示についても確認し、同法に違反しないよう留意することも重要です。
商標権に基づく禁止権
商標権者は、出願の際に指定した商品又は役務(サービス)について、他人が当該登録商標又は類似商標を、指定商品・役務又はそれと類似する商品・役務について使用することを禁止する権利(禁止権)を有します(商標法36条1項)。
よって、商標調査の結果、自社が使用する予定の商標と同一又は類似する商標が、自社製品と同一又は類似の商品を指定して既に登録されていることが判明した場合には、使用予定の商標を変更する必要があります。
登録商標の調査と回避は必須
変更案の検討手順として、まずは特許情報プラットフォームにおいて、変更案と同一又は類似する登録商標が、自社製品と同一又は類似の商品を指定して登録されていないかを調査します。もっとも、同データベースには出願後間もない商標は公開されていないため、継続的に調査を行うことが重要です。
変更案と登録商標が類似しているか否かは、両商標の外観、称呼又は観念等によって需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に観察し、対比される商標が同一又は類似の商品に使用された場合に、出所について混同を生ずるおそれがあるか否かを基準として判断します。また、当該判断においては、商標が使用される指定商品の主たる需要者層(例えば、専門的知識を有するか、年齢、性別等の違い)その他商品の取引の実情(例えば、日用品と贅沢品等の違い)を考慮し、指定商品の需要者が通常有する注意力を基準とします¹。
例えば、出願商標である「FAMILIAR」と登録商標である「ファミリー」については、「ファ」「ミ」「リ」の冒頭三音が共通して聴者に強い印象を与えること、「ファミリー」という言葉は日本においてよく知られており「ファミリ」の三連音だけで一種の連想、印象を呼ぶものであること等の諸点から考えると、両商標の称呼は簡易迅速を旨とする取引の実際において常に明瞭に区別されるものとはいえず、なお指定商品である「被服」の購買者が一般家庭婦人である場合が少なくないと考えられることをも考慮すれば、称呼上相紛れるおそれがあり、両商標は類似すると判断されています(最判昭和43年10月29日)。
このように、商標の類否判断は容易ではないため、できれば専門家の助言を得ていただく方が安心です。
不正競争防止法にも留意
上記のように他人の商標権を侵害しないかを検討することに加え、変更案を使用することが不正競争防止法(不競法)に違反しないかについても検討することが重要です。不競法では、需要者に広く認識された商品等表示(商号や商標等)と同一又は類似の商品等表示を使用して、商品や営業の出所について混同を生じさせること(周知表示混同惹起行為)や、他人の著名な商品等表示と同一又は類似の商品等表示を使用すること(著名表示不正使用行為)が禁止されています(不競法2条1項1号・2号)。
周知表示や著名表示については、検索システムが存在するわけではないため完全な調査を行うことは困難ですが、インターネット検索を行ったり、日頃から同業者の情報に注意を払ったりすることでリスクを軽減させることができます。
まとめ
今回は新製品の発売前に他社の登録商標に気付いたため、販売途中に商標を変更するという大変な事態を招かずに済みました。事前の商標調査の重要性が分かる事例です。
上記のような確認・検討を重ねてせっかく決定した商標について、その商品と同一又は類似の商品につき、後日他人が同一又は類似の商標を登録すれば、再び商標権侵害の問題が生じます。また、逆に他人が当該商標と同一又は類似の商標を使用すると、自社商標の価値が毀損されることになります。よって、ある程度の期間使用する予定の商標であれば商標登録を行うことも肝要です。
- ¹ 特許庁の商標審査基準を参照。
※この記事は、2023年10月18日に作成されました。