商標登録にコンセント制度が導入されて登録はしやすくなったのでしょうか?
商標登録コンセント制度の社会的背景
日本の商標法 では、商標登録出願日前の他人の登録商標又はこれに類似する商標であって、指定商品・指定役務を同一または類似とする商標 については、登録を受けることができないとされています(商標法4条1項11号)。この規定は、①先行登録商標の権利者の保護という私益や②商品・役務の出所混同の防止という公益を図ったものと言われています。
一方、米国・欧州・中国・韓国等の諸外国では、他人の先行登録商標に類似する商標が出願された場合でも、先行登録商標の権利者の同意等の一定の条件があれば両商標の併存登録を認める制度(コンセント制度)が導入されています。これは、同意により私益を保護する必要がなくなることを重視したものと考えられています。
諸外国のそのような状況に照らして、日本の商標法がコンセント制度を導入していないことは、昨今の国際化のさらなる進展にそぐわないのではないかと問題視されるようになりました。また、その具体的な問題点として、外国企業との間での国境を越えた類似商標の登録の合意が困難になっていること等が指摘されていました。
そのため、今回の商標法改正により、国際的な制度調和を図り、利用者のニーズに答えるため、日本でもコンセント制度が導入されることとなりました。
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商標登録コンセント制度の法的な取り扱い
改正商標法では、需要者(企業における顧客のことと理解して差し支えありません)の利益を図ることも考慮し、商品・役務の出所について誤認・混同するおそれがないことを条件として、コンセント制度が導入されることになりました。具体的には、下記のとおり商標法4条1項11号の例外規定が新設されて、類似するとの拒絶理由が通知された商標出願についても、出所の誤認・混同を生じない限り、引用商標権者(貴社に先行して商標を登録している者のことです)の同意を得て登録可能とされました。
第1項第11号に該当する商標であっても、その商標登録出願人が、商標登録を受けることについて同号の他人の承諾を得ており、かつ、当該商標の使用をする商品又は役務と同号の他人の登録商標に係る商標権者、専用使用権者又は通常使用権者の業務に係る商品又は役務との間で混同を生ずるおそれがないものについては、同号の規定は、適用しない。
なお、コンセント制度を利用して商標登録を行った場合には、以下の2つの請求を行えるようになります。
- 混同防止表示請求(改正商標法24条の4第1号)
一方の商標権者が商標を使用した結果、他方の商標権者の業務上の利益が害されるおそれが生じる場合には、商品や役務の混同を防止するための表示を付すよう請求することができます。 - 不正使用取消審判請求(改正商標法52条の2)
一方の商標権者が不正競争の目的で商標を使用した結果、他の商標権者の商品や役務と混同が生じる場合には、商標登録の取消審判を請求することができます。
実際の対応時のポイント
本件のように、類似するから登録できないという拒絶理由が通知されたとしても、以下のような手順で商標登録を行える可能性があります。
すなわち、
- 引用商標権者が誰で、どのような商品をメインにしているかを調べ、その結果、併存登録を認めても出所の誤認・混同を生じないと認められれば、
- その引用商標権者に連絡をとり、同意してほしいと申し出て、了解を得たうえで、
- 商標登録コンセント制度の適用を求める意見書と引用商標権者の同意書を提出することにより、
貴社の商標が登録されることが見込まれます。
ご質問のケースでは、取得しようとした貴社の商標の指定商品が、第30類の「穀物の加工品」に属するマカロニであるのに対し、拒絶理由通知で引用された商標登録の権利者は、同じ第30類の「菓子、パン」に属する和菓子を主たる取扱商品としています。そうすると、その権利者は、「菓子、パン」に似た「穀物の加工品」が同じ商品区分にあるため、念のため指定商品としたにすぎないという可能性があります。
また、その商標権者が将来使用する予定で現在はその指定商品に使用していないか、ごく少量の使用しかしていない場合には、貴社の商標とその権利者の商標が併存登録されても、需要者に出所の誤認・混同を生じないことは明らかです。
さらに、貴社とその権利者の営業拠点が、例えば北海道と大阪のように共通していないような場合や、両商標が全く同一ではなくよく見れば異なっているような場合も、需要者に具体的な出所の誤認・混同を生じないと判断されるための要素となる可能性があります。
これらに該当する場合には、上記手続きにより商標登録を行える可能性が高くなります。
なお、引用商標権者は、同意を求められてもこれに了解するかどうかは自由に決定できます。そのため、場合によっては有償での同意とすべき場合もあるでしょうし、今後、両者が円満に併存登録を続けていくために、同意することについて何らかの条件を約束すべき場合もあり得ます。
これらの交渉や手続をスムーズに行うためには、商標登録出願を多くこなしている弁護士または弁理士にご相談、ご依頼された方が良いと思われます。
まとめ
これまでは、既登録商標の権利者の同意があっても商標登録ができず、登録するには、いったん既登録商標の権利者名義に出願人名義を変更してもらい、更に登録査定後に元の出願人名義にするしか方法がありませんでした。商標登録コンセント制度は、日本における商標出願実務に大きな変更を加え、商標登録をしたい事業者に商標取得の新たな方法を提供するものです。
今回の商標法の改正によって、先行登録が拒絶理由となりそうな場合にも、この商標登録コンセント制度を利用することを視野に入れた出願戦略を立てることができるようになります。
※この記事は、2023年11月6日に作成されました。