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立退料はどのくらいの金額を要求できますか?

弊社は事業用店舗を賃借しています。契約期間の途中に、大家さんから「建物老朽化に伴い契約を解約したい。立退料は支払う。」との申し出がありました。
立退料の額によっては応じても良いのですが、どのくらい要求できますか?
算定方法やポイントなどを教えてください。

立退料の金額については、裁判例をみると、事案に応じて、移転のための実費や損失の補填額、借家権価格などを考慮して様々な算定方法を用いています。事業の形態によりケースバイケースですが、店舗の立退料の場合、立退料の金額が賃料数十ヶ月分から100ヶ月分になることもあります。店舗の立退きの場合には、移転に伴う休業補償や営業減収の金額などを損益計算書等から計算してきちんと示すことが重要になります。
回答者
國井 友和 弁護士
安部綜合法律事務所

立退料について

まず、店舗の賃貸借契約には借地借家法という法律が適用されます(ただし、平成4年7月までに契約された賃貸借契約については借家法が適用)。借地借家法上、建物賃貸借につき、賃貸人側の事情で解約申し入れをする場合には「正当な事由」が必要とされています(借地借家法28条)。そして、この「正当な事由」は、契約期間が満了した場合に賃貸人側から次回の更新を拒絶する場合にも必要とされています。

「正当な事由」については、条文上①建物の使用を必要とする事情、②建物の賃貸借に関する従前の経緯、③建物の利用状況、④建物の現況、⑤財産上の給付、といった要因が具備されているか否かが判断されます。この中の⑤財産上の給付は、一般的には立退料を指します。立退料は、「正当な事由」が完全ではないものの、一定割合まで認められるというケースにおいて、賃借人の不利益を経済的観点から軽減することで、「正当な事由」を補完・補充する要因として位置づけられます。そのため、立退料さえ支払えば他に理由がなくても「正当な事由」が認められるというわけではありません。また、明渡しを求める理由自体が「正当な事由」を具備するに近いものであれば、立退料の申出額は相対的に低額で良く、逆の場合には高額になります。

立退料算定の考え方

立退料について決まった算定方法があるわけではなく、合意ができずに裁判になった場合には、裁判所の裁量で算定方法が決まります。裁判例を概観しますと、事案に応じて、移転のための実費や損失の補填額、借家権価格などを考慮して様々な算定方法を用いています。

裁判所が立退料の算定の際に用いているのは、主として①実費・損失方式②借家権方式③併用方式です。

事業の形態によりケースバイケースですが、本件のような店舗の立退料の場合には、立退料の金額が賃料数十ヶ月分から100ヶ月分になることもあります。

実費・損失方式

移転の実費(移転費用)や移転に伴って生じる損失(移転損失)を基準として立退料を算定する方法です。本件のような店舗の賃貸では、従前建物に投下した資本の回収分、保証金等事業開始のための初期費用、休業補償、営業減収などが想定されます。

借家権方式

借家権の価格を基準として立退料を算定する方法です。国税庁が路線価図(HPから検索可能)において、借地権割合と借家権割合を定めていることから、これらを参考にして、『更地価格×借地権割合×借家権割合=借家権価格』という計算方法で算定されます。借地権割合は都市部住宅地ではだいたい60%程度、借家権割合は30%とされています。

併用方式

借家権価格を参考にしつつ、これに移転費用や移転損失などを加算して立退料を算定する方法です。

立退料交渉の注意点

立退料の交渉の中で、不動産鑑定士からの立退料に関する鑑定評価書などを参考にすることもあります。しかし、不動産鑑定士の鑑定評価書で求めた立退料(借家権の限定価格)は不動産から立ち退くことによる対価そのものであるため、本件にように店舗を営業している賃借人については、その店舗での営業で稼げていた利益が得られなくなることに伴う対価は含まれていません。そのため、別途、損益計算書等を分析して営業補償額を捻出し、請求するようにしましょう。

また、立退き交渉を行うことができるのは、当事者である賃貸人又は賃貸人が依頼した弁護士のみです。賃貸人側が管理会社や不動産業者その他立退き代行など称する業者を利用した場合、弁護士法違反(非弁行為)に該当するおそれがあり、合意内容が無効と判断されるリスクがあるので注意をするべきです。弁護士法72条では、弁護士ではない者が①「報酬を得る目的で」②「法律事件」について③「業として」(反復継続する意思で)④「法律事務」を取り扱うことを禁じています。

まとめ

以上のように、大家から適正な立退料を支払ってもらうためには、弁護士から法的なアドバイスを受けるほかにも、不動産鑑定士からの鑑定意見や、営業補償額を算定するために税理士や公認会計士からも意見をもらうなど、他の士業もうまく活用して、納得のいく交渉を行うのが良いかと思います。

この記事は、2024年1月23日に作成されました。

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